神経網膜炎はOCTで早く疑える?4例報告から早期所見を読む

タイトルNR

黄斑星状滲出が出そろう前の神経網膜炎は、外来では「乳頭浮腫」や「乳頭炎」として見えてしまうことがあります。Zatreanu らの2017年報告は、4例という小規模な Photo Essay ですが、典型像が完成する前にOCTで拾えるかもしれない所見として、乳頭上浸潤と内層網膜ヒダを提示しています。

この記事では、この論文を「OCTだけで神経網膜炎を診断するための論文」ではなく、乳頭浮腫を見たときに神経網膜炎を少し早めに疑うための読影視点として整理します。

目次

この論文を紹介する理由

この論文が扱っているのは、診断確定後の典型像ではなく、「黄斑星状滲出がまだ明瞭でない段階で、OCT上に何が見えるか」です。症例数は4例に限られますが、日常診療で撮像するOCT画像の見方を少し変えてくれる可能性があります。

特に、乳頭浮腫がある一方で黄斑星状滲出がまだ目立たない症例では、OCT上の乳頭表面と周囲内層網膜を意識して見ることで、感染歴や炎症性疾患の問診を前倒しできるかもしれません。

論文の基本情報

  • タイトル: Optical Coherence Tomography in Neuroretinitis: Epipapillary Infiltrates and Retinal Folds
  • 著者: Zatreanu L, Sibony PA, Kupersmith MJ
  • 掲載誌・年: Journal of Neuro-Ophthalmology, 2017
  • DOI: 10.1097/WNO.0000000000000501
  • PMID: 28418948
  • 論文種別: Photo Essay / 症例シリーズ(4例)

論文記載

著者らは、神経網膜炎4例の spectral-domain OCT(SD-OCT)所見を検討し、2つの特徴を強調しました。ひとつは視神経乳頭表面に見られる乳頭上浸潤(epipapillary infiltrates: EI)、もうひとつは atypical pattern of inner retinal folds、すなわち同心円状または環状に見える内層網膜ヒダです。

重要なのは、4例中一部で、EIが黄斑星状滲出より先に見えていたと報告されている点です。つまり、神経網膜炎を「黄斑星状滲出がそろってから考える疾患」とだけ捉えるのではなく、乳頭浮腫の段階でOCT上の乳頭表面や内層網膜の変化にも注意する、という読み方が示唆されます。


図1: 乳頭浮腫があり、黄斑星状滲出がまだ目立たない段階でのOCT読影ポイントです。乳頭上浸潤や内層網膜ヒダは神経網膜炎を早めに疑う手がかりになりますが、この図だけで診断を決めるものではありません。

ただし、この論文は4例の観察報告です。感度や特異度は分かりませんし、EIが神経網膜炎に特異的だとまでは言えません。著者ら自身も、これらを記述的なOCT所見として扱っており、組織学的な断定は避けています。

また、EIという用語は本邦の一般的な診療用語として広く定着しているとは限りません。実臨床では「乳頭上浸潤」という訳語だけでなく、「乳頭表面の浸潤性変化」「乳頭表面に乗るような高反射病変」など、画像所見として具体的に記述する方が伝わりやすい場面があります。

追加調査

神経網膜炎の原因としては、Bartonella henselae、梅毒、トキソプラズマ、結核、ウイルス感染、サルコイドーシス、特発性などが挙げられます。特に猫ひっかき病に関連する神経網膜炎では、猫との接触歴、特に子猫との接触やひっかき傷、発熱、リンパ節腫脹の確認が重要です。

日本眼炎症学会のぶどう膜炎診療ガイドライン第2版でも、猫ひっかき病に関連する視神経網膜炎の鑑別として、特発性視神経炎、各種続発性視神経炎、高血圧性網膜症、梅毒、トキソプラズマ、サルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病、ベーチェット病などが挙げられています。

Bartonella henselae 抗体検査は、典型例では臨床像と曝露歴が重要ですが、眼内炎症や神経網膜炎のような非典型・重症の関与を疑う場合には検査が有用になることがあります。実際の提出方法や保険運用は施設によって異なるため、猫接触歴や全身症状があれば、各施設の運用に沿って検討するのが現実的です。

考察

この論文の価値は、「神経網膜炎をOCTだけで確定する」ことではなく、「黄斑星状滲出が目立つ前から、神経網膜炎を鑑別に上げるきっかけを増やす」ことにあります。

乳頭浮腫があるのに黄斑星状滲出がまだない症例では、OCTの乳頭表面にEI様の変化がないか、乳頭周囲から黄斑側に内層網膜ヒダがないかを確認します。そこで違和感があれば、猫接触歴、発熱、リンパ節腫脹、皮疹、性感染症リスク、免疫状態などの問診を追加し、梅毒、トキソプラズマ、サルコイドーシスなども含めて鑑別を広げます。

一方で、EI様所見を見つけたから神経網膜炎だと断定するのは危険です。乳頭炎、他の炎症性視神経病変、乳頭浮腫を来す疾患との鑑別が必要であり、視力、RAPD、視野、眼底所見、蛍光眼底造影、採血、必要に応じた画像検査を合わせて判断します。

OCTは、神経網膜炎の「答え」を単独で出す検査ではありません。しかし、まだ典型像がそろわない段階で、次に聞くべき問診や提出すべき検査を考えるためのトリガーにはなり得ます。このくらいの距離感で読むのが、Zatreanu 2017報告の臨床的な使い方として妥当だと思います。

まとめ

  • Zatreanu らは、神経網膜炎4例のSD-OCT所見として、乳頭上浸潤と内層網膜ヒダを報告しました。
  • 4例中一部で、乳頭上浸潤が黄斑星状滲出に先行して見られたとされています。
  • ただし、4例のPhoto Essayであり、感度・特異度や疾患特異性は分かりません。
  • EIという用語は、本邦では「乳頭表面の浸潤性変化」として具体的に記述する方が実務的な場面があります。
  • 乳頭浮腫があり、黄斑星状滲出がまだ目立たない症例では、OCTを神経網膜炎を早めに疑う手がかりとして使います。
  • 鑑別ではBartonella henselaeだけでなく、梅毒、トキソプラズマ、サルコイドーシスなども意識します。

参考文献・参考資料


免責事項
本記事は医療従事者向けの学習・情報共有を目的としており、個別の患者への診断や治療を推奨するものではありません。実際の診療では、患者背景、緊急性、検査体制、各施設の方針を踏まえて判断してください。

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