RAPD は概念としてはよく知られていますが、外来で安定して検出するには検査条件の標準化が必要です。暗室条件、光源、照射時間、切替の速さ、患者の固視が少しずれるだけで、軽度の相対的求心性瞳孔欠損(relative afferent pupillary defect, RAPD)は見えにくくなります。
ここでは RAPD を概論ではなく、swinging flashlight test をどう実施するかという実務手技として整理します。
なぜ RAPD は取り手で差が出るのか
RAPD の本質は、左右の求心路入力の差を、両眼の共同瞳孔反応として観察することです。したがって、左右の照射条件が揃っていないと、求心路の差なのか、検査条件の差なのかが分かりにくくなります。
外来で所見が鈍る典型例は次のような場面です。
- 蛍光灯の明るい診察室でそのまま当てた
- ペンライトが弱く、明暗差が足りない
- スイングが速すぎて、比較ではなくただの往復になっている
- 逆に当てる時間が短すぎて escape を見ていない
- 患者が近くを見ていて近見三徴が混ざっている
- 上眼瞼が瞳孔にかかり、光軸も視軸もずれている
RAPD は「瞳孔を見れば自然に分かる」所見ではなく、条件を揃えるほど見えやすくなる所見と考える方が実務的です。
暗室の準備
完全暗室でなくてもよいが、薄暗さは必要
実務上の目標は完全暗室そのものではなく、環境光を落として瞳孔反応の変化を見やすくすることです。dim ambient light、つまり薄暗い環境で、検者が両瞳孔の動きを見分けられ、患者の瞳孔も適度に開く条件を作ります。
| 環境 | 実務上の評価 |
|---|---|
| 完全暗室 | 理想に見えるが、外来では毎回は難しい |
| 薄暗室 | 最も現実的。RAPD 検査には十分なことが多い |
| 明るい診察室 | 微妙な RAPD を取りにくい |
暗順応は「長く待つ」より「少し整える」
RAPD 検査の準備は、網膜機能検査のような本格的な暗順応ではありません。入室してすぐライトを当てるより、患者と検者の目が暗さに少し馴染む程度、数秒から十数秒ほど整えてから始めると見やすくなります。
暗室がない場合の代替案
- カーテンを閉める
- 診察灯を落とす
- 患者の顔周りだけ遮光する
- 診察フードや簡易遮光板を使う
完全な設備がなくても、患者の顔周りの環境光を一段落とす工夫で検査の質は変わります。
光源の選択
ペンライト(penlight / pen torch)
最も入手しやすい光源です。一方で、明るさのばらつきが大きく、古いペンライトでは「暗すぎて差が出ない」ことがあります。RAPD を見たい場合は、手元のペンライトが十分な明暗差を作れるかを普段から把握しておく必要があります。
Finoff transilluminator
明るくて安定しやすく、RAPD を繰り返し取る環境では使いやすい選択肢です。ただし、ペンライトより常に優れていると一般化するより、同じ距離・同じ角度・同じ強さで再現しやすい光源を選ぶと考える方が安全です。
直接検眼鏡・間接検眼鏡
使えないわけではありませんが、近距離で強すぎる光になりやすく、患者がまぶしさで顔を背けたり、過度の瞬目で見にくくなったりします。特に直接検眼鏡は近すぎて近見反応や観察角度の問題が混ざりやすく、RAPD のルーチンにはあまり向きません。
明るすぎる光の問題
光が弱すぎると差が出ませんが、強すぎてもよいとは限りません。
- まぶしさで患者が固視を保てない
- 開瞼が不十分になる
- 反応が急峻すぎて細かな差を追いにくい
- escape よりも「嫌がって動く」方が前景に出る
実務上は、十分に明るく、かつ患者が過度に嫌がらない光を安定して使えることが重要です。
患者の準備
遠方固視を最優先にする
RAPD 検査では、遠方固視が非常に重要です。近くを見てもらうと近見三徴で瞳孔が縮み、光反応の比較が読みにくくなります。
患者への声かけは簡潔で十分です。
- 「遠くの一点を見てください」
- 「ライトを左右に動かします」
- 「まぶしいですが、視線はそのままでお願いします」
ここで問題になるのは、検者が患者の正面に立つと、患者が検者の顔を見てしまうことです。実務上は、検者は患者の正面を完全には塞がず、患者のやや側方、またはやや下方から観察します。患者には検者の肩越し、壁の一点、遠方の視標などを見てもらいます。
つまり、患者の視線は遠方へ置き、検者の目線とライトだけが両瞳孔を追う、という配置にします。
患者を緊張させない
緊張すると瞬目が増え、眉が上がり、顔が引けます。RAPD は微妙な所見なので、検者の説明不足がそのままノイズになります。
開瞼の干渉を避ける
上眼瞼が瞳孔にかかる患者では、軽く眼瞼を挙げないと光が中心に入りません。ptosis や眉毛代償がある患者では、この一手間で所見の見え方が変わります。
眼瞼を挙げるときは、眼球を圧迫しないようにします。眼瞼を強く引き上げると患者が身構え、瞬目やBell現象が混ざるため、必要最小限にします。
散瞳薬・コンタクトの影響
片眼の薬剤性散瞳や機械的瞳孔異常では、遠心路側の反応性が鈍るため、通常の swinging flashlight test は解釈しにくくなります。コンタクト装用は大きな妨げにならないことが多い一方、強いまぶしさやドライアイがあると瞬目が増えます。検査の前に「今日は点眼しているか」を聞く価値はあります。
スイング法の手技細部
ここが RAPD 検査の核心です。
光は瞳孔中心へ
光軸が瞳孔中心からずれると、同じライトでも入力がぶれます。とくに斜めから当てる癖があると、片眼だけ条件が悪くなります。検者は「左右で同じ位置、同じ距離、同じ強さ」を意識します。
ただし、遠方固視を保たせるために、検者が患者の正面を塞ぎすぎないことも大切です。検者はやや側方またはやや下方から両瞳孔を観察し、ライトは患者の固視線を邪魔しない角度から瞳孔中心へ入れます。両瞳孔が同時に見えにくい場合は、無理に顔を正面へ入れるより、少し距離を取り、ライトの位置と観察位置を分ける方が安定します。
当てる秒数は 3 秒前後を目安にする
Bell らの臨床グレーディングでは、片眼ごとに 3 秒の pause を置く手技が用いられています。外来では厳密にストップウォッチで測る必要はありませんが、片眼 2〜3 秒程度、少なくとも初期縮瞳から redilation の有無を確認できる時間を置くと実用的です。
短すぎると初期収縮しか見えず、長すぎると患者が嫌がるか、検者がタイミングを失います。軽度 RAPD では、光を移した直後だけでなく、その後の戻り方まで見ることが重要です。
切替は素早く
片眼から反対眼への切替は、途中で顔や鼻根部を照らし続けるのではなく、素早く移します。ゆっくり動かすと途中の環境光や散乱光が混ざり、比較の質が落ちます。RAPD は「交互に比較する検査」であって、「ライトを左右に流す検査」ではありません。
複数回で再現性をみる
1回だけで決めず、同じ見え方が繰り返されるかを確認します。軽度 RAPD ほど、一発勝負ではなく再現性で判断した方が安全です。3〜5 往復程度を目安にすると、患者負担と再現性のバランスが取りやすくなります。
何を見ているのか
観察すべきなのは、単に「縮むかどうか」ではありません。
- 光を当てた直後の constriction
- その後の escape / redilation
- 正常眼に当てた時と患眼に当てた時の差
RAPD では、正常眼から患眼へ光を移したとき、両眼が相対的に開く方向へ動くように見えます。ここを「患眼が縮まない」とだけ捉えると、軽度所見を逃しやすくなります。

図1: 片眼ごとに数秒観察し、切替は素早く行う。正常眼照射時と患眼照射時で、両眼の初期縮瞳と redilation の差を見る。
実際の見方のコツ
最も実用的なのは、次の二択で考えることです。
| 光を当てた眼 | 両瞳孔の見え方 |
|---|---|
| 正常眼 | しっかり縮瞳し、その後も比較的保たれる |
| RAPD 眼 | 直後の縮瞳が弱い、または一瞬縮んでもすぐ開く |
つまり、患眼では「縮まない」のではなく、縮瞳のドライブが弱いと考える方が手技と一致します。
RAPD のグレーディング
Bell 分類に基づく臨床評価
RAPD の plus 表記には施設差があります。Bell らは 3 秒 pause technique を用いて、RAPD を I〜V に分類し、neutral density filter(NDF)の log unit と比較しました。本文では、厳密な研究分類と日常カルテの簡略表記を混同しないようにします。
| Bell grade | 反応の目安 | 対応する NDF の目安 |
|---|---|---|
| I | 弱い初期縮瞳のあと、より大きく redilation | 約 0.4 log unit |
| II | 初期縮瞳がはっきりせず、stall してから redilation | 約 0.7 log unit |
| III | 患眼照射でただちに redilation | 約 1.1 log unit |
| IV | 健眼を長めに照射した後、患眼照射でただちに redilation | 約 2.0 log unit |
| V | 患眼照射でただちに redilation し、二次的な縮瞳も乏しい | infinity |
日常診療では RAPD OS 1+ のような簡略表記が使われますが、これは施設内の慣習に依存します。経過比較を重視する場合は、可能なら NDF の log unit を併記した方が読み返しやすくなります。
Neutral density filter test(NDF)
定量化したいときは neutral density filter(NDF)が有用です。実務の基本は、RAPD のない側、または少ない側の前にフィルターを置いて入力を減らし、左右が等しく見える点を探すことです。
典型的には 0.3 / 0.6 / 0.9 / 1.2 log unit などを使い、必要に応じて重ねます。たとえば左 RAPD が疑われるなら、右眼前にフィルターを置いてスイングし、どの濃度で左右差が相殺されるかをみます。
NDF セットは神経眼科領域を扱う施設以外では常備されていないこともあります。設備がない場合は、無理に定量化しようとするより、検査条件、左右差、再現性、記録の一貫性を優先します。
定量化が必要な場面
- 経過観察で前回と比較したい
- 軽度所見で、主観的判定に不安がある
- 教育や研究で再現性を持たせたい
逆に、明らかな RAPD があり、診断や初期対応がそれで十分に進むなら、毎回 NDF が必須とは限りません。
偽 RAPD・拾えない RAPD の落とし穴
解剖学的瞳孔不同(anisocoria)
瞳孔径が左右で大きく違うと、見た目の反応差だけで RAPD っぽく見えることがあります。さらに、著しい不同瞳では小瞳孔側へ入る光量が物理的に減り、小瞳孔側に軽度の RAPD 様の差を生じうる点にも注意します。
片眼の薬剤性散瞳・機械的瞳孔異常
片眼の薬剤性散瞳、外傷性散瞳、虹彩括約筋損傷などでは、患眼の瞳孔運動をそのまま読めません。この場合は、健眼側の瞳孔反応だけを観察して左右の入力を比較する reverse RAPD の発想が必要になることがあります。
ただし reverse RAPD は条件がさらにシビアです。両眼性散瞳、両眼の虹彩異常、観察眼自体の反応不良がある場合は解釈できません。
媒質混濁
白内障などの媒質混濁は、同側の強い RAPD を単独で説明しにくい一方、検査を不安定にします。特に高度の片眼性白内障では、光散乱により白内障眼への刺激がかえって pupillomotor effectiveness を増し、対側の透明な眼に RAPD があるように見えることがあります。Lam と Thompson は、濃い片眼性白内障で対側眼に測定可能な RAPD が生じ、白内障手術後に消失したことを報告しています。
したがって、白内障眼と同じ側に RAPD が見える場合は、白内障だけで説明せず、視神経・網膜病変を疑う必要があります。
黄斑疾患と視神経疾患
黄斑疾患でも軽い RAPD 様所見が問題になることがありますが、一般に典型的な視神経病変ほど明瞭ではありません。中心視力だけでなく、視野や病変の広がりとの整合を取る必要があります。
Pupillary escape を見逃す
片眼に当てた瞬間の縮瞳だけ見て終えると、escape を逃します。RAPD の軽症例では、むしろ少し当て続けた後のじわっとした redilationの方が手がかりになることがあります。
正常でも軽度の pupil escape は起こりえます。違いは、正常では両眼照射条件でおおむね対称に起こる軽い redilation であるのに対し、RAPD では患眼照射時に両眼の縮瞳ドライブが相対的に弱く、正常眼照射時より redilation が強い、早い、再現する、という点です。
つまり、escape があるかないか ではなく、左右照射で escape の出方が非対称かを見ます。
片眼性網膜疾患の見逃し
視神経病変だけでなく、片眼性で広い網膜障害でも RAPD は出ます。網膜か視神経かは別問題であり、「RAPD がある = 視神経炎」と短絡しないことが重要です。

図2: RAPD の見え方は、瞳孔径、片眼の遠心路異常、媒質混濁、黄斑・網膜疾患、検査条件不良で揺れる。所見単独で局在を決めず、視力・色覚・視野・眼底と合わせて読む。
記録のしかた
カルテ記載は、簡潔でも再読可能であることが重要です。
RAPD OS 1++RAPD OSRAPD OS 1.2 log unit (NDF)RAPD OS, reproducible on repeated swinging flashlight test
NDF を使ったなら log unit を併記した方が経過で追いやすくなります。NDF を使わない場合でも、眼、強さ、再現性、検査条件が残っていれば、あとから読み返しやすくなります。
写真や動画は教育的価値がありますが、日常外来では手間と個人情報管理の問題があります。ルーチンではカルテ記載が中心で十分なことが多いです。
まとめ
- RAPD は、薄暗い環境、十分な光源、遠方固視、数秒照射、素早い切替で取りにいく。
- 検者は患者の正面を塞ぎすぎず、やや側方・下方から観察し、患者には遠方を見てもらう。
- 偽 RAPD の落とし穴は、瞳孔不同、片眼の薬剤性散瞳・機械的瞳孔異常、媒質混濁、検査条件不良である。
- 逃しやすいのは、短時間照射で escape の非対称性を見ていないケースである。
- NDF test は、軽度所見の定量化と経過比較で価値があるが、常備されていない施設では再現性のある記載を優先する。
RAPD は派手な診察ではありませんが、条件を揃えると所見の再現性が上がります。明日から外来で変えやすいのは、暗くする、遠くを見せる、数秒待つ、左右同条件で切り替える、この4つです。
参考文献・参考資料
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- Thompson HS, Corbett JJ, Cox TA. How to measure the relative afferent pupillary defect. Surv Ophthalmol. 1981;26(1):39-42. doi:10.1016/0039-6257(81)90124-7. PMID: 7280994
- Kawasaki A, Moore P, Kardon RH. Variability of the relative afferent pupillary defect. Am J Ophthalmol. 1995;120(5):622-633. doi:10.1016/S0002-9394(14)72209-3. PMID: 7485364
- Bell RA, Waggoner PM, Boyd WM, Akers RE, Yee CE. Clinical grading of relative afferent pupillary defects. Arch Ophthalmol. 1993;111(7):938-942. doi:10.1001/archopht.1993.01090070056019. PMID: 8328935
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- Liu GT, Volpe NJ, Galetta SL. Liu, Volpe, and Galetta’s Neuro-Ophthalmology: Diagnosis and Management. 3rd ed. Elsevier; 2018. ISBN: 9780323340441
免責事項
本記事は教育・情報提供を目的としており、個別の医療的助言や施設ごとの診療方針に代わるものではありません。
実際の診療では、患者背景、緊急性、各施設の体制を踏まえて判断してください。
