眼痛の原因は眼科が多数派、しかし神経の落とし穴は残る – 眼科/神経内科2施設データで頻度を整理した Bowen 2018

眼科外来で「目が痛い」を受けると、まず角膜・結膜・ドライアイを見ます。一方で、眼所見が乏しい眼痛には片頭痛、視神経炎(ON: optic neuritis)、三叉神経痛などが混ざる。診断の難しさは「どの程度の頻度で混ざるのか」が肌感覚になりやすい点です。


図1: 眼痛では、頻度の高い眼表面・前眼部疾患を拾いつつ、痛みの性状と赤旗で神経・眼窩・血管疾患の見落としを減らす。実際の原因や緊急度は症例により異なり、この図だけで診断を決めるものではありません。

目次

この論文を紹介する理由

Bowen 2018は、大学病院の眼科・神経内科外来に眼痛で受診した成人を後ろ向きに解析し、原因の頻度と、側性や痛みの性状がどの疾患に寄りやすいかを示しています。眼科と神経内科の“見ている母集団”が違うことも含めて可視化されており、外来トリアージの設計材料になります。

論文の基本情報

  • タイトル: The Most Common Causes of Eye Pain at 2 Tertiary Ophthalmology and Neurology Clinics
  • 著者: Randy C. Bowen, Jan N. Koeppel ほか
  • 掲載誌・年: Journal of Neuro-Ophthalmology, 2018
  • DOI: 10.1097/WNO.0000000000000601
  • 研究デザイン: 後ろ向き横断解析(チャートレビュー、2施設:スイス/米国、2012-01〜2013-12)

論文記載

研究目的:眼痛の「最も多い原因」を、眼科外来と神経内科外来でそれぞれ整理する

著者らは、眼痛は頻度の高い主訴である一方、これまで「最も多い原因」を系統的に示した研究がないと述べています。本研究の目的は、2つの大学病院における眼痛の原因頻度を明らかにし、施設差・診療科差、さらに側性や痛みの性状との関連を評価することです。

対象と方法:成人の眼痛(主訴)を後ろ向きに抽出し、最終診断を分類

2012年1月〜2013年12月に、眼科または神経内科で眼痛を主要訴えとして受診した18歳以上を対象に、後ろ向きのチャートレビューを行ったと記載されています。最終的に2,603例が解析対象となり、内訳は眼科外来2,407例、神経内科外来196例でした。

主結果(全体):炎症性眼疾患が最多で、全体の約7割を占めた

全2,603例のうち、炎症性眼疾患(結膜炎、眼瞼炎、角膜炎、ぶどう膜炎、ドライアイ、霰粒腫、強膜炎など)が眼痛の原因として1,801例(69.1%)を占めたと報告されています。

診療科差:眼科外来では炎症性が多く、神経内科外来では片頭痛が最多

眼科外来では、眼痛の原因として片頭痛が診断されたのは2,407例中71例(3%)と記載されています。一方、神経内科外来では片頭痛が196例中100例(51%)と最多で、次いで視神経炎(44例)などが挙げられています。

側性(片側/両側):疾患により寄り方がある

神経内科外来では、片頭痛/頭痛は片側・両側いずれも一定数で、視神経炎は片側が多い(神経内科外来の視神経炎44例中39例が片側)と表で示されています。また本文では、両側眼痛を伴う疾患として、特発性頭蓋内圧亢進症(IIH: idiopathic intracranial hypertension)やドライアイ/眼瞼炎なども挙げられています。

痛みの性状:burning(灼熱感)は眼表面に寄り、stabbing(刺す痛み)は片頭痛も鑑別に上がる

痛みの性状として、burning(灼熱感/ヒリヒリする痛み、N=498)、stabbing(刺すような痛み、N=70)、pain with eye movement(眼球運動時痛、N=115)を抽出し、原因との対応を提示しています。

  • burning(灼熱感/ヒリヒリする痛み)では、結膜炎/角膜炎/感染が246例(49.4%)、ドライアイ/眼瞼炎が138例(27.7%)を占めたと表に示されています。
  • stabbing(刺すような痛み)では、片頭痛/頭痛が13例(18.6%)と多い一方、結膜炎/角膜炎/感染も16例(22.9%)と一定数を占めています。
  • pain with eye movement(眼球運動時痛)では、視神経炎が37例(32.2%)と最多で、片頭痛/頭痛(10例、8.7%)やぶどう膜炎(7例、6.1%)なども併存しています。

本文では「眼球運動時痛」は視神経炎と強く関連する一方、この性状を訴えた患者のうち視神経炎に最終診断されたのは32%であり、他疾患も相応に含まれると述べられています。

限界:後ろ向きで、EMR検索・記載のばらつきの影響を受ける

著者らは、後ろ向き研究であること、施設間で検索方法が異なること、記載のされ方が診断に合わせて偏る可能性などを主要な限界として挙げています。

考察 / 実務提案

この研究は「眼痛の原因は多様」という一般論ではなく、実際の頻度の偏りを示している点が価値です。ただし2012-2013年の2施設外来データであり、救急外来や一般診療所の分布をそのまま表すものではありません。実務的には、眼科で多い疾患を先に拾いながら、所見が乏しい眼痛や赤旗を伴う眼痛に備える読み方がよいと思います。

1) まず眼科的緊急疾患と炎症性疾患を拾う

全体の69.1%が炎症性眼疾患であった、という結果は、眼科での眼表面・前眼部評価が依然として主戦場であることを裏付けます。まず急性閉塞隅角緑内障、角膜病変、ぶどう膜炎、強膜炎など、明らかな所見や緊急性のある疾患を拾う。そのうえで所見に乏しい場合も、片頭痛、視神経炎、三叉神経痛、血管疾患などを考える、という順序が現実的です。

2) 痛みの性状は“決め手”ではなく、検査の並べ替えに使う

burning(灼熱感/ヒリヒリ)は眼表面疾患に寄り、stabbing(刺すような痛み)では片頭痛/頭痛も鑑別に上がり、pain with eye movement(眼球運動時痛)は視神経炎に寄る、という傾向は示されます。ただし運動時痛の32.2%しか視神経炎ではなかった、という記載が示す通り、性状は単独で決め打ちできません。問診テンプレでは「性状で検査の優先順位を変えるが、鑑別の棚は落とさない」という使い方が現実的です。

3) 赤旗を短く要約する

神経・眼窩・血管疾患を考える眼痛では、視力低下、色覚低下、RAPD、眼球運動時痛、複視/眼筋麻痺、眼球突出、結膜浮腫、発熱、突然の激痛、神経脱落所見を確認します。高齢者では、側頭部痛、顎跛行、全身症状、視機能症状から巨細胞性動脈炎(GCA)を拾う視点も必要です。相談時には、これらを「ある/ない」で短く要約すると、次に必要な検査や緊急度が共有しやすくなります。

限界と注意点

  • 2施設・外来母集団の後ろ向き解析であり、一般診療所や救急の分布とは一致しない可能性がある。
  • 最終診断は診療録記載に依存し、診断基準の統一や再評価が前提ではない。
  • 「眼科外来での頻度」と「社会全体での頻度」は別物であり、数値をそのまま一般化して判断閾値を固定するのは危険である。

まとめ

  • Bowen 2018は、2施設の眼科/神経内科外来で眼痛の原因頻度を後ろ向きに整理した
  • 全2,603例のうち、炎症性眼疾患が1,801例(69.1%)と最多だった
  • 神経内科外来では片頭痛が51%(100/196)で最多、視神経炎が22.5%(44/196)で次いだ
  • 眼科外来では片頭痛は3%(71/2,407)と少数だった
  • burningは眼表面疾患に寄り、運動時痛は視神経炎に寄るが、単独では決め打ちできない(運動時痛のうち視神経炎は32%)
  • 眼科所見が乏しい眼痛でも、神経疾患・眼窩疾患・血管疾患の赤旗を短く要約して共有する視点が必要になる

参考文献・参考資料

  • Bowen RC, Koeppel JN, Christensen CD, et al. The Most Common Causes of Eye Pain at 2 Tertiary Ophthalmology and Neurology Clinics. J Neuroophthalmol. 2018;38(3):320-327. doi:10.1097/WNO.0000000000000601. PMID: 29334519
  • American Academy of Ophthalmology EyeWiki. Orbital Cellulitis. https://eyewiki.aao.org/Orbital_Cellulitis
  • American Academy of Ophthalmology EyeWiki. Giant Cell Arteritis. https://eyewiki.aao.org/Giant_Cell_Arteritis

免責事項
本記事は教育・情報提供を目的としており、個別の医療的助言や施設ごとの診療方針に代わるものではありません。
実際の診療では、患者背景、緊急性、各施設の体制を踏まえて判断してください。

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