HZOだけでは終わらないVZV神経眼科 – 視神経障害・眼筋麻痺・血管障害までを総説で俯瞰する Kedar 2019
帯状疱疹(herpes zoster)を「HZO(herpes zoster ophthalmicus)=皮疹+角膜炎」として扱うと、神経眼科の入口で見落としが生まれます。VZVは、視神経、眼球運動、網膜、血管まで届く。臨床で迷うのは「いつ抗ウイルスを開始し、いつ画像化し、いつ髄液/血清で裏を取るか」です。
この論文を紹介する理由
Kedar 2019は、VZV(varicella zoster virus)の神経眼科領域に関わる病態を、診断・治療・予防の観点から総説としてまとめています。HZOの周辺(眼筋麻痺、視神経障害、網膜VZV、血管障害、皮疹のないVZVなど)を「神経眼科の実務」で並列に扱っている点が、外来フローの再点検に向きます。
論文の基本情報
- タイトル: Neurological and Ophthalmological Manifestations of Varicella Zoster Virus
- 著者: Sachin Kedar, Lakshman N. Jayagopal, Joseph R. Berger
- 掲載誌・年: Journal of Neuro-Ophthalmology, 2019
- DOI: 10.1097/WNO.0000000000000721
- 研究デザイン: 総説(PubMed/Google Scholar検索+参照文献探索によるレビュー)

図1: 視神経障害、眼筋麻痺、網膜病変、中枢症状を「VZV神経眼科症候」として同じ入口で見るための実務フロー。実際の治療用量、検体提出、入院判断は施設方針、添付文書、腎機能、免疫状態に合わせて調整する必要があります。
表1: 症候別に見た画像化・検体確認・治療判断の整理。
| 症候 | まず確認したいこと | 画像・検体 | 治療判断の軸 |
|---|---|---|---|
| 急性視力低下・視神経障害 | HZOの既往/皮疹、疼痛、乳頭所見、網膜病変の合併 | 脳・眼窩MRI(脂肪抑制を含む)。必要に応じて髄液/血清、眼内液 | 神経学的関与や画像異常があれば静注抗ウイルスを検討。孤立性で安定していれば内服も選択肢 |
| 複視・眼筋麻痺 | III/IV/VI麻痺、INO(核間性眼筋麻痺)、skew deviation、眼窩炎症 | 造影MRI brain/orbit。髄膜増強、虚血、血管障害があれば髄液検査 | 画像/髄液でVZV関与が示されれば静注抗ウイルス。孤立性脳神経麻痺は病勢を見て内服も選択肢 |
| 網膜炎・急性網膜壊死(ARN)疑い | 周辺部網膜壊死、血管炎、硝子体炎、僚眼リスク | 眼内液PCR/血清学を検討。ただし検査を待ちすぎない | 疑えば確定を待たず全身抗ウイルスを開始し、網膜専門対応へつなぐ |
| 頭痛・意識変容・血管障害疑い | 中枢神経症状、免疫抑制、脳卒中様症状 | MRI/MRA、髄液PCR + 髄液抗VZV抗体など血清学 | VZV血管障害/髄膜脳炎を想定し、神経内科・救急と早期に共有 |
論文記載
疫学と問題設定:HZは頻度が高く、HZOの一部が神経眼科イベントにつながる
著者らは、米国ではHZが年間約100万例、生涯リスクは約30%と述べています。HZの10%〜20%がHZOで、HZOの約半数で眼合併症が起こる一方、複視(脳神経麻痺)はHZOの30%未満、視神経障害はHZOの1%未満と記載されています。神経眼科で問題になる合併症として、髄膜脳炎、脊髄炎、血管障害、脳神経炎なども挙げられています。
診断:皮疹が典型だが、zoster sine herpete や中枢/眼内病変では分子検査が必要になる
典型例では、紅斑上の小水疱が一側性・単一デルマトームに分布することが臨床診断の入口になります。一方で、皮疹がはっきりしない(zoster sine herpete)場合や、全身/臓器病変が関与する場合には、分子診断が必要と述べられています。
VZV DNAのPCR(皮疹内容、髄液、血液、組織、眼内液など)が診断モダリティとして言及され、PCRに加えて血清/髄液のペア検体での血清学的確認を併用することが推奨されています。結論部では、PCRの感度・特異度が95%〜100%と記載され、発症2〜3週のペア検体でリアルタイムPCR+血清学を組み合わせると診断収率が上がる、とまとめられています。ただし、検体の種類や病型によって診断収率は変わります。特にVZV血管障害では髄液PCR単独で陰性になりうるため、髄液抗VZV抗体など血清学を組み合わせる前提で読む必要があります。
治療の基本:抗ウイルスは48〜72時間が一つの時間窓/神経・網膜病変はIVを優先
著者らは、HZ/HZOでは発症48〜72時間以内に抗ウイルス薬治療を開始し、疼痛と合併症を減らすべきと述べています。また、複視や急性視力低下など神経眼科症候がある場合は、全例で神経画像(neuroimaging)を推奨すると記載されています。
神経症状や画像異常を伴う症例では、ペア血清/髄液でPCRと血清学を用いて診断確認を行うべきとされ、神経病変または網膜病変を伴うVZVは静注アシクロビルで速やかに治療すべき、とまとめられています。孤立性の視神経障害または脳神経麻痺は、内服抗ウイルスで管理可能と記載されていますが、これは「全例を外来内服で安全に扱える」という意味ではありません。免疫状態、進行性、画像所見、網膜病変の有無で入院/静注への閾値は変わります。
網膜VZV(急性網膜壊死など):確定診断を待たずに全身抗ウイルスを開始する
VZV網膜炎の項では、診断確認(眼内液PCR/血清学)に触れつつも、疑えば確定診断を待たずに全身抗ウイルス治療を開始すべきと述べられています。静注アシクロビル(例:10 mg/kgを1日3回、14日)が治療の中心として挙げられ、その後に数か月の内服抗ウイルスを続ける、という記載があります。本邦では急性網膜壊死(ARN)の治療実務や用量設計は施設方針、添付文書、腎機能、網膜専門医の判断に依存するため、論文の用量をそのまま指示として移植しないことが重要です。
視神経障害:頻度は低いが、画像+(必要なら)髄液/血清で裏付ける
著者らは、視神経障害はHZOの1%未満、herpes zoster optic neuropathy(HZON)としてはHZOの0.5%未満で起こりうるとし、急性期にも遅発性にも生じうると述べています。病態は複数仮説(視神経への侵入、血管炎に伴う虚血など)が挙げられています。
マネジメントとして、急性視神経障害を伴うHZOでは脳・眼窩MRI(脂肪抑制シーケンスを含む)を推奨し、確認検査(ペア血清/髄液でPCRと血清学)を行うべき、と記載されています。治療は、神経学的関与があれば静注抗ウイルス(論文ではアシクロビル10〜15 mg/kgを8時間毎で2〜3週)が必要で、孤立性視神経障害は内服で管理可能とされています。なお、本邦の成人用添付文書では脳炎・髄膜炎で増量する場合も上限が1回10 mg/kgとされるため、15 mg/kgの記載は国内実務では注意が必要です。ステロイド併用については、明確な利益がなく、網膜病変拡大リスクがありうるため推奨しない、という記載があります。
眼筋麻痺/眼窩病変:全例で造影MRI、所見があればLP+IV治療へ
眼筋麻痺を含む眼球運動障害(第III/IV/VI脳神経麻痺、INO:核間性眼筋麻痺、skew deviation、眼窩炎症など)がVZVで起こりうると述べられています。部分/完全眼筋麻痺を伴うHZでは、全例で造影MRI(脳+眼窩)を推奨し、髄膜増強・虚血性変化・血管障害などMRI異常がある場合は腰椎穿刺(lumbar puncture: LP)を行うべき、と記載されています。
画像または髄液でVZV関与が示される場合は静注抗ウイルス(論文ではアシクロビル10〜15 mg/kgを8時間毎で2〜3週)で治療し、孤立性脳神経障害は外来で内服抗ウイルスが可能と述べられています。ここでも本邦では添付文書上限、腎機能調整、高齢者の神経毒性リスクを踏まえた用量設計が必要です。複視の予後について、primary gazeの複視は6〜12か月で90%以上が軽快する、という記載があります。
予防(ワクチン):50歳以上の成人で接種を推奨する、という立場
結論部で、50歳以上の成人ではVZVワクチン接種を推奨すべきと述べられています。2006年承認の生ワクチンと、2017年承認の組換えサブユニット(glycoprotein E)ワクチンが挙げられ、HZ/PHN抑制への有効性が整理されています。本文中では、生ワクチンは3年フォローでHZ発症率を51%低下させたとされ、組換えサブユニットワクチンは70歳以上でHZ予防91.3%、PHN予防88.8%と記載されています。
本邦では2025年度から、65歳の方などへの帯状疱疹ワクチンが予防接種法に基づく定期接種の対象となっています。接種対象、使用するワクチン、接種間隔、自治体助成、免疫抑制例での生ワクチン可否は制度・患者背景に左右されるため、実務では最新の公的情報と添付文書を確認する必要があります。
考察 / 実務提案
この総説の記載を、眼科外来の実務に落とすなら、ポイントは「HZOの皮膚所見がない/目立たない例でも、神経眼科イベントとしてVZVを思い出せるか」です。実装の観点で3つに分けます。
1) VZVを疑う入口を「皮疹」から「症候クラスタ」へ広げる
論文は、VZVが視神経、眼球運動、網膜、血管障害まで広がりうることを並列に扱っています。外来では、(a)急性視力低下、(b)複視/眼球運動障害、(c)眼底(網膜炎/血管閉塞を疑う所見)、を“同じ箱”で扱い、皮疹の有無とは独立に鑑別へ入れる、という整理が実務的です。
2) 「画像化」と「確定検査」の優先順位を先に決めておく
著者らは、神経眼科症候があれば全例で画像化を推奨し、神経症状や画像異常があればペア血清/髄液のPCR/血清学で確認すると述べています。施設内で「誰がMRIをオーダーし、誰が腰椎穿刺を段取りし、誰が抗ウイルス開始を判断するか」を事前にすり合わせておくと、時間窓(48〜72時間)の議論がしやすくなります。
3) ステロイドは“同時走行”の設計が必要(感染の見落とし回避)
視神経障害の項で、著者らはステロイド併用の利益が明確でなく、網膜病変拡大リスクに触れています。現場では「炎症性視神経障害」を想定してステロイドが先行しやすい場面があるため、VZVを鑑別に入れるなら、抗ウイルスと検体確認が同時に動く設計が必要になります。特に網膜炎やARNが疑われる場合は、ステロイド単独で走らせないことが実務上の要点です。
限界と注意点
- 本論文は総説であり、治療方針の個別最適化(内服/IVの境界、ステロイド併用の適応)を一律に決める研究ではない。
- PCR/血清学の実務は検体・採取タイミング・検査体制に影響されるため、論文記載の流れをそのまま各施設に移植できるとは限らない。
- 静注アシクロビルの用量は論文記載と本邦添付文書の上限が一致しない部分がある。腎機能、年齢、入院管理、施設プロトコルに基づく調整が必要である。
- 神経眼科症候は多疾患と重なるため、VZVを疑うこと自体が“過剰診断”にも“見逃し”にも振れうる。画像と検体確認の導線をセットで設計する必要がある。
まとめ
- Kedar 2019総説は、VZVの神経眼科合併症を診断・治療・予防まで俯瞰して整理している
- HZOの約半数で眼合併症が起こるが、複視(脳神経麻痺)は30%未満、視神経障害は1%未満と記載されている
- 著者らは、HZ/HZOで抗ウイルスを48〜72時間以内に開始し、神経眼科症候があれば全例で画像化を推奨している
- 皮疹が不明瞭な場合(zoster sine herpete)や中枢/眼内病変では、PCR+血清学的確認を病型に応じて組み合わせることが重要と述べられている
- 神経病変/網膜病変を伴う場合は静注抗ウイルス、孤立性視神経障害や脳神経麻痺は内服で管理可能と整理されているが、本邦では添付文書・腎機能・施設体制を踏まえる必要がある
- 50歳以上の成人にVZVワクチン接種を推奨すべき、という立場が示されており、本邦でも2025年度から65歳等への定期接種が始まっている
参考文献・参考資料
- Kedar S, Jayagopal LN, Berger JR. Neurological and Ophthalmological Manifestations of Varicella Zoster Virus. J Neuroophthalmol. 2019;39(2):220-231. doi:10.1097/WNO.0000000000000721. PMID: 30188405
- 厚生労働省. 帯状疱疹ワクチン. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/shingles/index.html
- PMDA. アシクロビル点滴静注用250mg 添付文書. https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/581120_6250401F1287_1_05
免責事項
本記事は教育・情報提供を目的としており、個別の医療的助言や施設ごとの診療方針に代わるものではありません。
実際の診療では、患者背景、緊急性、各施設の体制を踏まえて判断してください。
