視力表ではそこそこ見えている。屈折や白内障だけでは説明しにくいのに、本人は「距離感が合わない」「物を取り損ねる」「周りがごちゃごちゃして見える」と訴える。このとき眼科が拾える鑑別のひとつが、DLB(dementia with Lewy bodies)の視知覚障害です。

図1: DLBの視知覚障害を、眼科外来で拾う入口から高次視覚障害、DLBらしい随伴症状、転倒・運転・鑑別の共有へつなげて整理した概念図です。視力や眼底だけで説明しにくい「見にくい」を、単独検査ではなく問診・簡便課題・生活リスクの組み合わせで読むことが重要です。
この論文を紹介する理由
DLBの視覚症状は「幻視」だけではありません。色覚・コントラスト感度から、物体認識、空間/動きの知覚、模写課題まで広く障害されうること、そしてその障害が転倒や運転安全に直結しうることを、Devenyi 2024 はレビューとして整理しています。眼科外来で「視力は出るのに見にくい」を前にしたとき、どこを問診し、どんな簡便課題で“違和感”を可視化するかのヒントになります。
論文の基本情報
- タイトル: Visual dysfunction in dementia with Lewy bodies
- 著者: Ryan A. Devenyi, Ali G. Hamedani
- 掲載誌・年: Current Neurology and Neuroscience Reports, 2024
- DOI: 10.1007/s11910-024-01349-8
- 研究デザイン: 総説(Review)
論文記載
視力が保たれても「見え方の質」が落ちうる
DLBでは、視力(visual acuity)は比較的保たれることが多い一方で、腹側(what)・背側(where)両経路の機能が障害され、視知覚・視空間機能が広く低下しうるとまとめられています。症状・課題は以下のように多領域です。
- 色覚・コントラスト感度
- 物体/形態認識(重なり図形、シルエット、回転図形、欠損図形、錯視輪郭など)
- 空間定位と運動知覚(心的回転、位置の判断、運動検出など)
- visuoconstruction(図形模写:時計描画、五角形模写、ROCF模写など)
- pareidolia(場面/ノイズでの見誤り)
眼科で拾いにくい「物体認識」の弱り:Fragmented letters
画像の一部が欠けている状況から対象を再構成する課題(fragmented/incomplete letters)で、DLBは「完全な文字は読めても断片化文字で崩れる」所見が報告されています。臨床病理研究では、Fragmented Letters test が剖検確認DLBとADを区別する有用な指標の一つとなりうること、スコアがLewy小体密度と相関したことが紹介されています。
模写課題は“便利だが純粋な視機能検査ではない”
時計描画や図形模写は外来で実施しやすい一方、視覚だけでなく実行機能や運動機能も要求します。DLBではそれらも障害されうるため、模写の崩れを「視覚だけ」と短絡しない注意が必要です。
それでも、MMSEの五角形模写やROCF模写、時計描画はDLBで一貫して障害され、後頭葉〜後部頭頂領域の低代謝/低灌流と関連する所見がまとめられています。
幻視は高頻度(中核症状)で、視覚系と注意系の相互作用が示唆される
視覚幻覚はDLBの中核症状で、ある研究ではDLB患者の72%に認めたと紹介されています。視覚ネットワークの障害だけでなく、注意ネットワークや皮質下構造も関与しうるという整理で、複雑幻覚(人・動物など)と軽微な幻覚/錯覚(passage hallucinationなど)で関与ネットワークが異なる可能性にも触れられています。
生活機能への影響:転倒と運転
視覚障害のQOL影響は十分に検討されていない一方、患者は「物や距離を見誤る」訴えが多いと記載されています。転倒に関しては、DLBはパーキンソニズム等で元来リスクが高い上に、空間知覚・ナビゲーション障害が加わることでさらに増悪しうると論じています。図形模写の成績が、幻視・パーキンソニズム・認知の変動などを調整しても転倒リスクと関連した報告が引用されています。
運転については、認知機能検査と運転成績の関連を扱ったシステマティックレビュー、DLB軽症例の運転シミュレーション研究、そして路上評価でDLB/PDDの約3人に1人が不合格だった報告(主因は車線位置、合流、左折)が紹介されています。
網膜は「これからの領域」:OCT所見とα-synuclein
DLBにおける網膜関与について、OCTでganglion cell layerが薄いという報告はあるが、加齢や全般的な神経変性の指標で説明できる可能性があり、当初は解釈が難しかったと整理されています。一方で、年齢を合わせたDLBと健常対照で、ganglion cell layer菲薄化や微小血管変化の差を示した報告が引用されています。
また、剖検網膜での封入体所見、ERG異常、網膜/視神経乳頭でのリン酸化α-synucleinやα-synuclein集積の報告にも触れられており、retinaをバイオマーカーへつなぐ研究領域として位置づけられています(ただし現時点では補助的所見)。
考察 / 実務提案
眼科の実務に引き直すと、DLBの視覚障害は「視力・眼底・OCTで説明できない見えにくさ」を、神経疾患として言語化するための枠組みになります。
- 問診は「幻視」だけで終わらせず、距離感の狂い(段差・階段・物をつかむ)、混雑場面での見にくさ、夕方〜日内変動、転倒歴、RBD(寝言・寝相)を短く確認する。入室時の歩行・姿勢・動作緩慢など、パーキンソニズムを示す所見も観察しておく。
- 外来の“簡便課題”として、五角形模写、時計描画(記憶/模写の両方)、可能ならROCF模写を入れる。崩れ方が「視覚+実行機能」のどちらに寄っていそうかを所見として残す。
- ADとの鑑別が問題になる場面では、初期〜中期のDLBでは視空間障害が目立ち、記憶が相対的に保たれうるという軸を持つ。Fragmented Letters testのような「不完全情報からの再構成」がキーになりうる点を知っておく。
- 眼科側でできる介入は、DLBの確定診断よりも「可逆的な眼科要因(屈折、白内障、照明・コントラスト)」を整えつつ、転倒や運転のリスク、認知症外来での評価が必要な所見を早めに共有することにある。
- 本邦では、認知症は運転免許の取消し・停止等に関わる「一定の病気等」に含まれる。運転については眼科単独で可否を判断せず、診断状況と地域の制度に沿って、主治医・認知症外来・運転免許窓口へつなぐ視点で扱う。
限界と注意点
- 本論文は総説であり、個々の検査や所見の診断精度は研究ごとにばらつきがある。外来での単独テストだけでDLBを確定することはできない。
- 前駆期(MCI-LBなど)の視覚検査所見は研究間で一貫せず、定義や集団の違いによって結果が揺れると記載されている。
- OCTや網膜α-synucleinなどは興味深いが、現時点では補助所見で、臨床導入の位置づけは確立していない。
- 模写課題の低下は視覚のみならず実行機能・運動機能にも左右されるため、解釈を単純化しない。
まとめ
- DLBでは視力が保たれていても、視知覚・視空間機能が広く障害されうる
- 障害領域は色覚/コントラスト、物体認識、空間/動き、模写、pareidoliaまで多彩
- Fragmented Letters testはDLBとAD鑑別に有用な指標の一つとなりうる
- 五角形模写、時計描画、ROCFなどの模写課題は外来で“違和感”を可視化しやすい
- 視覚障害は幻視だけでなく、転倒と運転安全に直結しうる
- OCTや網膜α-synucleinは研究が進む領域だが、現時点では補助所見の位置づけ
- 眼科の役割は可逆的要因を整えつつ、危険(転倒/運転)と鑑別の必要性を適切に共有すること
参考文献・参考資料
- Devenyi RA, Hamedani AG. Visual dysfunction in dementia with Lewy bodies. Curr Neurol Neurosci Rep. 2024;24(8):273-284. doi:10.1007/s11910-024-01349-8. PMID: 38907811
- Salmon DP, Smirnov DS, Coughlin DG, et al. Perception of Fragmented Letters by Patients With Pathologically Confirmed Dementia With Lewy Bodies or Alzheimer Disease. Neurology. 2022;99(18):e2034-e2043. doi:10.1212/WNL.0000000000201068. PMID: 36028327
免責事項
本記事は教育・情報提供を目的としており、個別の医療的助言や施設ごとの診療方針に代わるものではありません。
実際の診療では、患者背景、緊急性、各施設の体制を踏まえて判断してください。
