『ギザギザ』『暗点』『モヤ』を言語化する – 視覚性片頭痛前兆の症状レパートリーを整理した系統的レビュー Viana 2019

「片頭痛の前兆っぽい」と言われる視覚症状は、患者さんの語彙とこちらの問診の仕方で姿が変わります。「チカチカする」「見えない」「モヤがかかる」が同じ言葉でまとめられると、TIA、後頭葉てんかん、網膜・視神経疾患との切り分けも曖昧になります。

Viana 2019は、視覚性片頭痛前兆を elementary visual symptoms(EVS)、つまり症状の最小単位として整理した系統的レビューです。この記事では、代表的なEVSを外来で使う日本語に置き換えながら、問診でどこを聞くとよいかをまとめます。

目次

この論文を紹介する理由

この論文の価値は、視覚前兆を「閃輝暗点」という一語で済ませず、光、線、暗点、かすみ、ゆらぎといった部品に分けて扱った点にあります。

患者さんは「ギザギザ」「キラキラ」「黒いところ」「モヤ」「水面みたい」と表現します。医療者側がそれをEVSの単位に分けて聞き取れると、陽性症状と陰性症状、時間経過、進展様式を記録しやすくなります。これは片頭痛前兆らしさを確認するだけでなく、非典型例を拾ううえでも役立ちます。

論文の基本情報

  • タイトル: Clinical features of visual migraine aura: a systematic review
  • 著者: Michele Viana, Erling Andreas Tronvik, Thien Phu Do, Chiara Zecca, Anders Hougaard
  • 掲載誌・年: The Journal of Headache and Pain, 2019
  • DOI: 10.1186/s10194-019-1008-x
  • PMID: 31146673
  • 研究デザイン: 系統的レビュー

論文記載

目的:視覚前兆の「症状タイプ」と「頻度」を、既報から整理する

著者らは、片頭痛前兆(migraine aura)の視覚症状は多彩である一方、用語と分類に合意がなく、TIAや後頭葉てんかんなどとの鑑別が難しい点を問題として挙げています。そのうえで、視覚前兆症状をEVSとして定義し、既報研究からEVSの種類と頻度をまとめることを目的にしています。

方法:PubMed検索と参照文献探索で、視覚前兆を系統的に記録した研究を抽出

2018年6月1日にPubMed/MEDLINEで検索し、ICHD-3の参考文献も含めて探索したと述べられています。視覚症状の頻度が抽出できること、英語論文であること、10例以上の片頭痛患者を含むことなどを条件に選定し、最終的に14研究を表にまとめています。

主結果:EVSは30種類、頻度は1%〜91%まで幅がある

本レビューで整理されたEVSの総数は30で、各EVSの頻度は研究間で大きく異なり、1%〜91%まで幅がありました。研究ごとの用語、聞き方、前向き/後ろ向きの違いが大きいため、単一の割合を標準値として扱うのは危険です。

一方で、複数研究で比較的よく報告された代表的なEVSがあります。外来では、この表を患者さんの言葉に翻訳するための辞書として使うと便利です。

EVS原著での頻度範囲患者さんの言い方陽性/陰性問診で確認すること
flashes of bright light / unformed flashes16-38%ピカッと光る、閃光陽性単発か連続か、移動するか
“foggy” / blurred vision / dimness25-54%モヤ、かすみ、暗く見える陰性/曖昧片眼性か両眼性か、眼表面症状と合うか
zigzag / jagged lines24-81%ギザギザ、稲妻、波線陽性広がるか、視野内を移動するか
scotoma23-77%暗点、抜ける、穴があく陰性陽性症状を伴うか、同名半盲様か
small bright dots / phosphene19-70%小さい光点、星のような点陽性数、動き、反復性、持続時間
heatwaves / water-like distortion8-24%陽炎、水面越し、ゆらぐ陽性/歪み歪視・網膜疾患の訴えと混ざっていないか


図1: 視覚性片頭痛前兆を、EVS、陽性/陰性、時間軸、非典型サインの順に聞き分けるための概念図です。実際の鑑別では、眼所見、神経症状、発症様式、既往発作との類似性を合わせて判断します。

用語の落とし穴:「scintillating scotoma」は複合症状である

著者らは、研究によっては複数のEVSが1つの用語にまとめられて報告されることを問題視しています。典型例が scintillating scotoma です。この語は、scotoma、zigzag lines、flickering lights などが組み合わさった表現として使われることがあり、EVS単位の記録には向きません。

臨床でも同じです。「閃輝暗点」と書くだけでは、光が見えたのか、暗点があったのか、ギザギザが広がったのか、どの順番だったのかが残りません。診療録では「右同名半盲様の暗点が出現し、その辺縁にギザギザした光が広がり、20分で消退」くらいまで分けて書けると、後から読み返しやすくなります。

臨床的背景:鑑別はTIA・てんかんなどを含む

Vianaらは、片頭痛前兆がTIAや後頭葉てんかんなどと鑑別上問題になることを強調しています。この記事では救急治療の判断までは広げず、眼科外来での症状の聞き分けに絞ります。大切なのは、「片頭痛らしい」と思える症例でも、初回発症や非典型例では決め打ちしないことです。

実務での聞き方

Viana 2019のEVS整理を外来に持ち込むなら、次の3点で聞くと使いやすくなります。

1) まず「陽性症状」と「陰性症状」を分ける

患者さんは「見えない」「チカチカする」「モヤがかかる」を混ぜて話します。問診では、陽性症状、つまり光、線、点、ゆらぎがあったのか、陰性症状、つまり暗点や欠損があったのかを分けます。

どちらが先に出たのか、同時だったのかも重要です。陽性症状が広がった後に暗点として残ったのか、最初から視野が欠けたのかでは、鑑別の見え方が変わります。

2) 時間軸と進展を、EVSとセットで記録する

視覚前兆では、「何が見えたか」だけでなく、「どのくらいかけて出たか」「広がったか」「どのくらいで消えたか」が重要です。徐々に出現して広がるのか、突然完成するのか、数分で終わるのか、1時間を超えるのかを分けて記録します。

診療録では、たとえば「左視野に小光点が出現し、5分ほどでギザギザした線として拡大、20分で消退。その後頭痛あり」のように、EVSと時間軸を一文で残すと実用的です。

3) 頭痛を伴わない前兆では、非典型サインを明示する

頭痛を伴わない前兆では、患者さん本人も医療者側も「片頭痛」と確信しにくくなります。ICHD-3も、頭痛を伴わない典型的前兆ではmimicとの鑑別が難しく、特に初回発症、40歳以降の初発、陰性症状のみ、極端に短い/長い持続ではTIAなどの除外が必要としています。

したがって、初回発症、40歳以降の初発、従来と違う経過、陰性症状のみ、強い片側性、極端に短いまたは長い持続、神経症状の併存があれば、「片頭痛前兆らしい」と決めず、TIA、後頭葉てんかん、網膜・視神経疾患などを優先して除外します。

限界と注意点

  • 本論文は視覚前兆の症状記載を集めたレビューであり、個々の症状だけで鑑別診断を確定するものではありません。
  • 収載研究の多くが後ろ向きで、想起バイアスや用語の不統一が残ります。
  • EVSの頻度は研究ごとに幅が大きく、単一の割合を標準値として扱うのは危険です。
  • 視覚症状では、片眼性か両眼性か、同名性か、眼底・視神経所見と合うかを必ず合わせて確認します。

まとめ

  • Viana 2019は、片頭痛視覚前兆をEVS、つまり症状の最小単位で整理した系統的レビューです。
  • 視覚前兆EVSは30種類に及び、頻度は1%〜91%と研究間のばらつきが大きくなっています。
  • 代表的EVSは、閃光、モヤ/かすみ、ジグザグ線、暗点、小光点、陽炎様のゆらぎなどです。
  • 「閃輝暗点」と一語でまとめず、陽性症状、陰性症状、時間軸、進展様式に分けて記録します。
  • 初回発症、40歳以降の初発、陰性症状のみ、極端な持続時間、従来と異なる経過では、TIAや後頭葉てんかん、眼疾患を優先して除外します。

参考文献・参考資料


免責事項
本記事は医療従事者向けの学習・情報共有を目的としており、個別の患者への診断や治療を推奨するものではありません。実際の診療では、患者背景、緊急性、検査体制、各施設の方針を踏まえて判断してください。

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