非典型の視神経炎(ON: optic neuritis)らしい所見に遭遇したとき、見逃したくない原因の一つが感染です。ただし、感染に関連する視神経障害には、病原体が眼・視神経や周辺組織で活動している病態と、感染を契機とした免疫介在性の病態があります。両者では抗感染症薬とステロイドの位置づけが異なるため、まず病態を分けて考える必要があります。
この論文を紹介する理由
Kahloun 2015は、感染性視神経症を原因微生物ごとにまとめるとともに、病型(乳頭炎、神経網膜炎など)と随伴眼所見(網膜炎、眼窩炎症など)から原因を考える枠組みを示した総説です。2015年時点のレビューであるため、治療表をそのまま処方指針にするのではなく、臨床像から必要な検査と専門科連携を組み立てるために読むのが適切です。

図1: 活動性感染・病原体の直接侵入と、感染後の免疫介在性病態では治療の軸が異なります。実際には重なりもあり、この図だけで病態や治療を決めるものではありません。
論文の基本情報
- タイトル: Infectious optic neuropathies: a clinical update
- 著者: Rim Kahloun, Nesrine Abroug, Imen Ksiaa, Anis Mahmoud, Hatem Zeghidi, Sonia Zaouali, Moncef Khairallah
- 掲載誌・年: Eye and Brain, 2015
- DOI: 10.2147/EB.S69173
- 研究デザイン: 総説(感染性視神経症の臨床像・診断・治療のレビュー)
論文記載
感染性視神経症は「視神経炎」以外の顔も持つ
著者らは、感染に関連した視神経障害が、乳頭炎(papillitis)、球後視神経炎、神経網膜炎(neuroretinitis)、AION様、視神経萎縮など、複数の表現型を取り得ると述べています。病態は、病原体の直接侵入だけでなく、炎症・変性・血管機序などの間接機序も関与しうる、と整理されています。
典型の視神経炎(typical ON)と、感染を含む「非典型」を区別する
著者らは、典型的な脱髄性視神経炎を、若年成人に多い急性・片側性の病態で、自然経過でも視機能が改善しやすいものとして記載しています。眼球運動時痛は典型例を支持する所見ですが、感染性を否定する所見ではありません。また、同論文には典型例の検査を脳・脊髄MRIに限定する趣旨の記載がありますが、これは2015年当時の整理です。
現在は、視神経・脳MRI、OCT、臨床経過を統合し、再発性、両眼性、重篤な視力低下、著明な乳頭腫脹、視交叉病変などがあればAQP4-IgGやMOG-IgGを含む抗体介在性視神経炎も検討します。両眼性、強い眼内炎症、非典型的な経過、全身所見の併存がある場合は、感染だけに固定せず、炎症性・自己免疫性、腫瘍性、浸潤性などを含めて鑑別を広げます。
随伴眼所見から検査の優先順位を決める
視神経障害の表現型を「乳頭炎」「神経網膜炎」「球後視神経障害」「虚血性視神経症様」「視神経萎縮」などに分け、さらに網膜炎、ぶどう膜炎、網膜血管炎、眼窩炎症、髄膜炎・脳炎所見を伴うかを確認すると、検査の優先順位を付けやすくなります。たとえば、黄斑星芒状白斑を伴う神経網膜炎ではBartonellaなど、壊死性網膜炎ではヘルペスウイルス群、ぶどう膜炎・網膜血管炎では梅毒や結核などを臨床背景と合わせて考えます。所見だけで病原体を確定できない点には注意が必要です。
検査:血液だけで完結しない(必要なら髄液・眼内液・画像へ)
著者らは、血算、赤沈、CRP、血清学的検査、培養、PCRや抗体検査(房水、硝子体、血清、髄液)、結核感染検査、CT、MRIなどを候補に挙げています。ただし、これらを全例に一括して行うという意味ではありません。疫学・曝露歴、免疫状態、発熱や皮疹などの全身所見、眼所見、MRI所見から事前確率を考え、次のように段階的に選びます。
- まず行う評価:詳細な病歴、散瞳眼底検査、必要に応じたOCT・眼底画像、造影眼窩・脳MRI、基本的な炎症・血液検査
- 所見に応じた検査:梅毒血清反応、HIV検査、結核感染検査、Bartonella抗体など
- 眼内炎症・網膜炎がある場合:眼内液PCRや抗体価を、採取リスクと診断への寄与を検討して選択
- 髄膜炎・脳炎、播種性感染、中枢神経病変が疑われる場合:髄液検査を検討
- 発熱、菌血症、感染性心内膜炎、敗血症が疑われる場合:抗菌薬開始前の血液培養を検討
検体は可能なら抗微生物薬やステロイドの開始前に採取しますが、視機能や生命に関わる緊急例で経験的治療を不当に遅らせてはいけません。

図2: 非典型度と随伴眼所見を起点に、必要な検査を選択して治療へつなぐ流れです。検査項目と緊急度は患者背景や施設体制によって異なります。
治療:活動性感染か、感染後の免疫介在性病態かを分ける
病原体の活動性感染や直接侵入が疑われる場合、原因に応じた抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬、抗寄生虫薬が治療の主軸です。感染が十分に除外されていない段階でのステロイド単独投与は、病原体によっては感染を悪化・播種させるおそれがあります。一方、感染後の免疫介在性視神経炎では、活動性感染を示す根拠が乏しく、免疫治療が中心となる場合があります。
たとえば、急性網膜壊死(ARN)に関連する視神経障害ではアシクロビルの有効性に触れつつ、全身ステロイドの役割は確立していないとし、ステロイド導入前に抗ウイルス治療で感染をカバーする重要性が記載されています。
また表として、Bartonella関連神経網膜炎、眼結核、梅毒など、主要疾患の治療選択肢がまとめられています。ただし、これは2015年時点の概説です。薬剤、投与経路、期間、ステロイド併用の適否は、病原体、病変部位、免疫状態、重症度、耐性状況、最新の診療指針に基づき、感染症科などと判断します。
考察 / 実務提案
この総説を臨床で使うポイントは、「感染性視神経症」という長い鑑別リストを暗記することではありません。活動性感染の可能性と、感染後の免疫介在性病態を分けながら、眼所見と全身所見を検査選択につなげることです。
1) まず「典型ON」かどうかを確認し、外れるほど感染を意識する
若年、片眼、眼球運動時痛、中心暗点、自然改善傾向など典型的な脱髄性ONに近ければ、感染症検査を無差別に追加する意義は低くなります。反対に、両眼性、強い眼内炎症、網膜炎・血管炎、免疫不全、発熱・皮疹・髄膜刺激症状、非典型的な進行や再発があれば鑑別を広げます。同時に、AQP4-IgG陽性NMOSDやMOGADなど、現在重要な抗体介在性視神経炎も検討します。
2) 眼底/前眼部の所見を「随伴所見」として記録し、検査の優先順位に変換する
(a)網膜炎・壊死性網膜炎、(b)ぶどう膜炎・網膜血管炎、(c)眼窩炎症、(d)神経網膜炎、(e)髄膜炎・脳炎所見を記録し、曝露歴と免疫状態を重ねると、VZV/HSV、梅毒、結核、Bartonellaなどの検査優先度を立てやすくなります。
3) ステロイドの前に、感染の活動性と治療目的を言語化する
「感染に関連する視神経症なら、すべて抗感染症薬でカバーしてからステロイド」と一律には扱えません。活動性感染が疑われる場合はステロイド単独を避け、可能なら先に検体を採取し、適切な抗感染症治療とステロイドの要否・時期を病原体別に判断します。感染後の免疫介在性病態が考えられる場合は、抗感染症薬が常に必要とは限りません。治療開始を急ぐ症例では、採取に固執して治療を遅らせず、眼科・神経内科・感染症科で並行して判断します。
他科への橋渡し
- 感染症科/内科: 「視神経障害の病型」「網膜炎やぶどう膜炎の有無」「免疫状態」「疑う病原体(VZV/梅毒/結核/Bartonellaなど)」「すでに採取した検体」を短く共有し、抗感染症薬の開始と検査の優先順位をすり合わせる。
- 神経内科: 画像化(脳・眼窩MRI)と髄液検査の適応、視神経炎との鑑別、入院適応の判断を相談する。
- 臨床検査部/救急: PCRや髄液検体の提出手順、提出可能曜日、検体量・容器などの運用を確認しておく。
限界と注意点
- 本論文は総説であり、地域差(流行感染症、検査体制)や個々の重症度によって、鑑別の優先順位と治療導線は変わりうる。
- 表に示された治療選択肢は2015年時点の概説であり、現在の処方推奨として直接利用できない。薬剤選択・投与期間・併用ステロイドの是非は、病原体、免疫状態、合併眼所見、最新の指針に基づいて判断する。
- 感染性視神経症は稀な原因も含むため、“何でも感染”に寄りすぎると過剰検査になりうる。典型ONとの距離感(非典型度)を軸にバランスを取る必要がある。
まとめ
- Kahloun 2015は、感染性視神経症を病型と随伴眼所見の組み合わせから整理した総説である
- 感染性視神経症は乳頭炎、神経網膜炎、球後視神経障害、AION様など多彩な表現型を取り得る
- 典型ONから外れるほど、感染性を含む非典型の鑑別として設計し直す必要がある
- 診断は疫学/病歴/免疫状態/全身所見と眼所見パターンを合わせ、血清学とPCRなどで確認すると述べられている
- 評価には血液検査に加え、必要に応じて髄液・眼内液検査やCT/MRIを組み合わせる
- 活動性感染では抗感染症薬が主軸となり、ステロイド単独投与は避ける。一方、感染後の免疫介在性病態では治療の考え方が異なる
- 検体は治療前に採取できることが望ましいが、緊急の経験的治療を遅らせてはならない
- 2015年の典型ONや治療に関する記載は歴史的文脈として読み、現在はAQP4-IgG、MOG-IgGを含む鑑別と最新指針を併用する
参考文献・参考資料
- Kahloun R, Abroug N, Ksiaa I, Mahmoud A, Zeghidi H, Zaouali S, Khairallah M. Infectious optic neuropathies: a clinical update. Eye Brain. 2015;7:59-81. doi:10.2147/EB.S69173. PMID: 28539795
- Petzold A, et al. Diagnosis and classification of optic neuritis. Lancet Neurol. 2022;21:1120-1134. doi:10.1016/S1474-4422(22)00200-9
免責事項
本記事は教育・情報提供を目的としており、個別の医療的助言や施設ごとの診療方針に代わるものではありません。
実際の診療では、患者背景、緊急性、各施設の体制を踏まえて判断してください。
