亜急性に視力と色覚が落ちて、痛みは軽く、MRIで視神経が造影される。これだけ揃うと「視神経炎」と判断したくなりますが、鑑別にはサルコイドーシスも入ります。Kidd 2016は、サルコイド視神経症がdemyelinating optic neuritis(ON)と似て見えること、緩徐進行する別の一群があることを、20年間に前向きに記録した52例から報告しています。
この論文を紹介する理由
外来で「視神経炎らしい」と扱う症例の中には、神経サルコイドーシスが含まれます。問題は、サルコイド視神経症でも発症時に眼内炎症を伴わないことがある点です。本研究では同時眼内炎症が36%で、残る64%には認められませんでした。したがって、「ぶどう膜炎がないからサルコイドではない」とは言えません。再発性視神経炎をMSやNMOSDだけに結びつけず、非典型ONの鑑別としてサルコイドーシスを認識するための材料になります。

図1: 疼痛、眼内炎症、MRI、全身所見を組み合わせて評価する模式図。いずれも単独では診断できず、眼内炎症がないことやACEが正常であることだけで除外することもできません。
論文の基本情報
- タイトル: Optic neuropathy associated with systemic sarcoidosis
- 著者: Kidd DP, Burton BJ, Graham EM, Plant GT
- 掲載誌・年: Neurology: Neuroimmunology & Neuroinflammation, 2016;3(5):e270
- DOI: 10.1212/NXI.0000000000000270
- 研究デザイン: 前向き観察コホート研究(20年、52例、ロンドンの3つの教学病院)
論文記載
対象と背景
52例(平均年齢42.5歳、20〜71歳、女性61%)が組み入れられました。民族構成はCaucasian 24例、African/Caribbean 24例、South Asian 4例でした。著者らは、論文中で引用した比較人口の構成(Caucasian 60%、African/Caribbean 14%、South Asian 18%)に比べ、African/Caribbeanの患者が多いと指摘しています。ただし、本研究は発症率や民族別リスクを推定する集団ベース研究ではなく、専門施設への紹介・選択の影響を受けます。33例では視神経症発症と同時に全身性サルコイドーシスと診断され、18例は既知サルコイドーシスの診断から6か月〜20年後に視神経症を発症しました。残る1例は視神経症発症後に全身診断がつきました。
組織学的に確証が得られたのは40例(呼吸器組織 28、リンパ節 3、肝 1、眼窩 3、神経組織 5)、残り12例は臨床的に「highly probable(WASOG基準)」と判定されました。
2つの臨床サブタイプ
サルコイド視神経症は症候の進行速度で2つに大別されました。
- 亜急性発症型(subacute、optic neuritis 様): 43例(83%)。数日で進行し、demyelinating ON と臨床的によく似ます。
- 緩徐進行型(progressive): 9例(17%)。より緩徐に進行し、浸潤性・腫瘤性病変を伴う症例では視機能改善が乏しい傾向でした。
亜急性型43例の内訳は、一側性27例、同時両側性4例、逐次両側性12例(間隔1〜60か月)でした。コホート全体では16例(31%)が両側性でした。

図2: Kidd 2016で報告された亜急性型43例と緩徐進行型9例の比較。割合は専門施設の観察コホート内の構成であり、母集団における有病割合や個別患者の予後を示すものではありません。
Demyelinating ON との臨床的な違い
ONSG(Optic Neuritis Study Group)の demyelinating ON データと比較され、次の差が浮かびました。
- 疼痛: サルコイド27% vs ONSG 90%。「痛みの少ない亜急性視力低下」がサルコイドを疑う1つの旗
- nadir 視力で no perception of light(NPL): サルコイド 11% vs ONSG 3%。重症化しやすい例がある
- 同時眼内炎症: サルコイド 36%(granulomatous anterior uveitis 10、vitritis 1、panuveitis 1、choroiditis 1、retinal vasculitis 2、cotton wool spots 2、macular exudates 1、episcleritis 1)vs ONSG 3%
- ただし 64%では視神経症発症時に眼内炎症を伴わず、「眼内炎症がないからサルコイドではない」とは言えません
MRI所見と CSF
CT 1例を除く全例で MRI が施行され、75%(39例)に視神経・視神経鞘の異常所見、31%(16例)に隣接または広範な神経系炎症所見が認められました。視神経の高信号と enhancement の組み合わせが最多で、視神経周囲炎(perineuritis)2例、視交叉病変 1例も含まれていました。CSF は33例で得られ、25例正常、protein 上昇 21%、pleocytosis 15%、oligoclonal band は28例で陰性、5例で matched bands(CSF+血清)でした。
治療反応と再発
49例がコルチコステロイドで治療されました。亜急性型では視力改善が観察された一方、浸潤性・緩徐進行型では改善が乏しい傾向でした。最終視力(治療後のbest acuity)の中央値は両側例で0.7、片側例で0.5で、亜急性型の視力改善中央値は+0.225、進行型では改善を認めなかったと報告されています。ただし、治療法を比較した試験ではなく、サブタイプ別の治療効果や予後を因果的に評価できる研究デザインではありません。
再発は25%(13例)に生じ、多くはステロイド減量中に再燃し、再増量や免疫抑制薬追加が行われました。本コホートでは再発は予後不良因子ではありませんでしたが、小規模な観察研究の所見であり、「再発しても予後に影響しない」と一般化することはできません。免疫抑制薬としてアザチオプリン12例、メトトレキサート5例、ミコフェノール酸1例、TNFα拮抗薬2例が使用されましたが、薬剤間の有効性を比較した研究ではありません。
ACE 単独上昇例という落とし穴
Kiddらは、メインの52例とは別に、視神経炎とACE上昇を認めながらサルコイドーシスの証拠が得られなかった6例も記載しています。ACE中央値は100 U/L(80〜178)で、全例男性、半数が両側性でした。臨床像は通常の視神経炎と区別できず、画像・CSFも非特異的で、追跡中に全身性サルコイドーシスは確認されず、ACEは自然に正常化しました。著者らは、ACEが非特異的に上昇する一群があり、ACE単独ではサルコイドーシスの根拠にならないと注意しています。ただし6例のみの記述であり、長期経過を含めた一般化はできません。
本邦で運用するときの注意
- 本研究はロンドンの専門施設コホートであり、日本人を含む東アジア人への外的妥当性は確認されていません。
- WASOG評価、ACE・リゾチーム、胸部画像、ガリウムシンチ、FDG-PETなどは、検査特性と最新の保険要件、施設の診療導線に沿って選択します。FDG-PETを視神経炎からの全身検索として一律に行うものではありません。
- AQP4-IgGやMOG-IgGは臨床像に応じて検討します。両検査は測定法・保険適用・利用可能性が同一ではないため、施設の検査体制を確認します。
- 本研究で使用された免疫抑制薬・生物学的製剤は、薬剤と病態により国内の承認適応が異なります。治療選択は神経内科・呼吸器内科などと行います。
考察 / 実務提案
この論文を眼科外来と神経内科外来に持ち帰るときの軸は、次のように整理できます。
- 「痛みの少ない亜急性ON」では、サルコイドーシスも鑑別に置く。本研究ではAfrican/Caribbeanの患者が多く含まれましたが、人種そのものを診断根拠にせず、全身症状、既往歴、眼内炎症、胸部画像などを合わせて評価します。「眼内炎症がないからサルコイドではない」とは言えません。
- demyelinating ONとの初期所見だけでの区別は困難。MRIで視神経だけでなく視神経鞘や隣接部位、髄膜なども確認し、CSF所見、皮膚・関節・呼吸器・耳下腺症状を組み合わせます。AQP4-IgG・MOG-IgGは臨床像に応じて検討します。
- 緩徐進行型や浸潤性・腫瘤性病変では、亜急性型より視力改善が乏しい傾向が報告された。ステロイド反応だけで病型や予後を決めず、神経内科・呼吸器内科などと早期に共有します。
- 再発は25%で観察された。著者らは、慎重なステロイド減量と、減量困難な再発例に対する免疫抑制薬追加を提案しています。これは比較試験で確立した治療手順ではなく、実際の治療は専門科と個別に判断します。
- ACE単独上昇でサルコイドと決めない。ACEは補助所見であり、画像、病理、臓器病変などの追加証拠を探します。ACE高値だけを理由に治療を開始・継続することは避けます。
他科への橋渡し
- 神経内科: 神経サルコイドーシスの確診と長期免疫抑制管理。再発時の治療強度判断は専門科の領域。
- 呼吸器内科: 胸部画像・気管支鏡・縦隔リンパ節生検。Kidd 2016 では組織確証の最多経路(28/40)が呼吸器組織。
- リウマチ科 / 内科一般: ステロイド長期投与とその副作用管理、メトトレキサート・アザチオプリン等のフォロー。
- 眼科: 視力・色覚・視野・OCT・眼底所見の継続評価、ぶどう膜炎合併時の眼内治療、ステロイド長期投与に伴う緑内障・白内障の管理。
限界と注意点
- 観察コホート研究であり、ランダム化試験ではありません。治療レジメンは3病院間で異なり、ステロイド用量・期間にも幅があります。治療効果の比較は記述レベルにとどまります。
- 17例が WASOG 基準を満たさず除外されており、「サルコイド視神経症の全例」ではなく「確証 or 高確度例」のデータです。境界例(後にサルコイドと判明する例、別疾患に分類される例)は含まれていません。
- ロンドンの3つの専門病院からなるコホートで、紹介・選択バイアスや地域の民族構成の影響を受けます。発症率や民族そのものによるリスクを推定した研究ではなく、日本人を含む東アジア人への外的妥当性は別途検証が必要です。
- ACE 単独上昇 6例の解釈は著者見解であり、追跡期間の長さ・例数からは「最終的にサルコイドが顕在化しない」ことを断定はできません。長期フォローが推奨されています。
まとめ
- サルコイド視神経症は demyelinating ON に「似ているが少し違う」非典型 ON として現れる
- 亜急性型43例(83%)と緩徐進行型9例(17%)の2サブタイプが報告され、後者では視力改善が乏しい傾向だった
- 64%は発症時に眼内炎症を伴わず、眼内炎症がないことを根拠にサルコイドを除外できない
- 25%で再発を認め、本コホートでは予後不良因子ではなかったが、一般化はできない
- ACE 上昇単独ではサルコイドと診断しない — 全身的な追加証拠を求める
参考文献・参考資料
- Kidd DP, Burton BJ, Graham EM, Plant GT. Optic neuropathy associated with systemic sarcoidosis. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2016;3(5):e270. doi:10.1212/NXI.0000000000000270. PMID: 27536707
- Optic Neuritis Study Group. The clinical profile of optic neuritis. Arch Ophthalmol. 1991;109(12):1673-1678. PMID: 1841573
- Judson MA, Costabel U, Drent M, et al. The WASOG Sarcoidosis Organ Assessment Instrument: an update of a previous clinical tool. Sarcoidosis Vasc Diffuse Lung Dis. 2014;31(1):19-27. PMID: 24751450
免責事項
本記事は教育・情報提供を目的としており、個別の医療的助言や施設ごとの診療方針に代わるものではありません。
実際の診療では、患者背景、緊急性、各施設の体制を踏まえて判断してください。
