若年でBRAO(branch retinal artery occlusion)を見たとき、動脈硬化や塞栓だけでは説明しづらい症例が混じります。両側性・多発・再発、そして「耳」「脳」の症状が後から追い付くタイプでは、Susac症候群を知っているかどうかで初期対応が変わります。
この論文を紹介する理由
Susac症候群は、典型的な3徴(網膜動脈閉塞・感音難聴・脳症)で有名ですが、初診時点では揃わないことが多いとされます。Egan 2019は、診断の決め手になりうる“孤立した所見”(FAのAWHとMRIの脳梁中心病変)を明確にし、治療を「早期に、強めに」進めるための実務的アルゴリズムを提示しています。
論文の基本情報
- タイトル: Diagnostic Criteria and Treatment Algorithm for Susac Syndrome
- 著者: Robert A. Egan
- 掲載誌・年: Journal of Neuro-Ophthalmology, 2019
- DOI: 10.1097/WNO.0000000000000677
- 研究デザイン: 総説(State-of-the-Art Review、診断基準・治療アルゴリズムの提案)
論文記載
Susac症候群の典型像:3徴だが「揃うまで時間差」がある
Susac症候群は、網膜・内耳・脳を侵す血管閉塞性の病態(vasculo-occlusive disease)として説明されています。疫学として、女性が多く(4/5が女性)、発症年齢の平均は32歳と記載されています。
ただし、臨床3徴(視機能障害/感音難聴/脳症)や、神経画像3徴(白質病変/深部灰白質病変/髄膜(軟髄膜)病変)が初診時に完全には揃わないことが診断の障壁になる、と述べられています。
眼所見:BRAOに加えて、Gass plaques と AWH が“診断のヒント”
眼病変はBRAOとして現れ、視野障害は「部分的で無痛」と表現されています。さらに、急性期にGass plaques(網膜細動脈の所見)がほぼ常に見られるが、病理特異的ではない、と整理されています。
本論文が強調するのは、FA(fluorescein angiography)でみられる arteriolar wall hyperfluorescence(AWH)です。とくに、BRAOの虚血部位とは離れた、見かけ上正常な細動脈にAWHが出現する所見は、Egan 2019ではSusacを強く示唆する所見として位置づけられています。

図1: BRAOの虚血領域、Gass plaques、BRAOから離れたAWHを模式的に分けた図です。Gass plaquesはヒントになりますが特異的ではなく、離れたAWHを見つけたときにSusac症候群を強く疑う、という読み方を単純化しています。実際のFA所見は症例や撮影条件により異なり、この図だけで診断を決めるものではありません。
表1: Susac症候群を疑う眼所見の読み分け。
| 所見 | 読み方 | 注意点 |
|---|---|---|
| BRAO | 若年、両側性、多発、再発ではSusacを鑑別に入れる | 塞栓・血管炎・凝固異常など他疾患も並行して評価する |
| Gass plaques | 急性期のヒントになる網膜細動脈所見 | Susacに特異的ではない |
| BRAOから離れたAWH | Egan 2019では診断の決め手になりうる所見として強調 | 読影経験や撮影条件に依存するため、FA全体で確認する |
耳所見:低音域優位の感音難聴と耳鳴
難聴は蝸牛由来(cochlear)で、耳鳴(roaring tinnitus)を伴って始まることがあると記載されています。聴力像として、軽症では低音域の難聴が典型とされ、重症では全周波数に及ぶ可能性が示されています。重症例では人工内耳に至る場合がある、と触れられています。
脳所見:MRI 3徴と、決め手になりうる「脳梁中心病変」
脳病変は多彩で、白質・深部灰白質病変・髄膜病変(leptomeningeal enhancement)が神経画像3徴として整理されています。臨床症状は病変部位によって変わりうる(記憶障害、精神症状、失調、片麻痺、脳幹病変による複視など)と述べられています。
さらに、脳梁(corpus callosum)中心部の病変はSusacに強い特徴があり、雪玉(snowball)やスポーク(spoke)様の所見として説明されています。時間経過で空洞化し“穴”のように見えることがあり、MS(multiple sclerosis)でみられるT1 holeと類似するが、Susacの脳梁病変はより中心性である点が対比されています。
診断枠組み:Eganによる提案として、孤立所見を重視する
本論文では、診断の基盤として以下が提示されています。
- 臨床3徴: 脳症、少なくとも一側の低音域難聴、少なくとも一眼のBRAO
- 神経画像3徴: 白質病変、灰白質病変、髄膜増強
加えて本論文では、EuSaC診断基準とは別に、3徴が揃わない状況でも definite diagnosis に近づけるための“孤立した画像所見”として、以下の2つを重視する提案が示されています。これはEgan 2019の簡略化された診断枠組みとして読むのが安全です。
- MRIの脳梁中心病変(central callosal lesions)
- FAでのAWH(BRAOから離れた部位:remote from BRAO)
治療アルゴリズム:ステロイド+IVIgを基盤に、breakthroughで追加
エビデンスは臨床試験に乏しい前提を置いた上で、「治療は迅速かつ積極的に行う必要がある」と記載されています。提案される初期治療は以下です。
- コルチコステロイド開始
- IVIg(intravenous immunoglobulin)を月1回で6か月
その上で、breakthrough disease(治療下での活動性)がある場合の追加治療として、mycophenolate mofetil および/または rituximab、さらに難治例では cyclophosphamide を追加する流れが表で提示されています。塞栓症として扱う治療ではなく免疫抑制が主軸であり、抗血小板薬・抗凝固薬は有効な治療として位置づけられていません。
活動性評価として、Eganは視野検査・MRI・FAを1か月後と3か月後に再評価し(症状があれば随時)、MRIの新規/造影病変や、新規視野障害+FAのAWHを「治療不十分」とする基準を提示しています。
考察 / 実務提案
眼科外来でSusacを“思い出す”ための実務ポイントは、若年のBRAOを「塞栓の一種」として閉じないことだと考えます。
- 若年・両側性・多発BRAOでは、問診で耳鳴/難聴、精神症状や認知の変動、ふらつき等を短く拾い、時間差で揃う前提で経過を見立てる。
- FAは「虚血部位だけ」を見るのではなく、見かけ上正常な細動脈にAWHがないかを意識して読む(BRAOから離れたAWHが決め手になりうる)。
- 画像と症状が揃わない段階でも、脳梁中心病変があれば鑑別を大きく動かす可能性があるため、神経内科とMRI所見を共有する。
- 治療は免疫抑制が主軸であり、眼科単独で完結しない。診断・活動性評価・治療強度を、神経内科・耳鼻科と同じテーブルで議論できる形にする。
限界と注意点
- 本論文は総説で、治療アルゴリズムは臨床試験に裏付けられた標準治療というより、文献レビューと経験に基づく提案である。
- Eganが重視する孤立所見による診断枠組みは、EuSaC基準そのものではなく、早期診断を意識した提案として読む必要がある。
- 本論文で提示されるIVIg、rituximab、mycophenolate mofetil、cyclophosphamideなどの使用は、本邦では適応・保険・施設運用の確認が必須である。専門施設や関連診療科との相談が前提になる。
- Eganが強調する所見(AWHの場所、脳梁中心病変)の読み方は、撮像条件や読影経験に依存しうる。
- Susacは経過が月単位〜年単位で進行し、自己限定的となりうる一方、網膜病変が再発する例があると記載されており、短期の安定で判断しない注意が必要。
まとめ
- Susac症候群は網膜・内耳・脳を侵す病態で、典型はBRAO+感音難聴+脳症の3徴
- 初診時点で3徴が揃わないことがあり、時間差で“完成する”前提が必要
- 診断の決め手になりうる所見として、FAでのAWH(BRAOから離れた部位)とMRIの脳梁中心病変が強調されている
- Gass plaquesは急性期に多いが、特異的所見ではない
- Eganの治療アルゴリズムでは、ステロイド+IVIgを基盤に、活動性(breakthrough)で免疫抑制薬を追加する提案が示されている
- 塞栓症としての抗血小板薬・抗凝固薬ではなく、免疫抑制を軸に考える病態として整理されている
- 眼科単独では完結しないため、神経内科・耳鼻科との同時並行の導線が鍵になる
参考文献・参考資料
- Egan RA. Diagnostic Criteria and Treatment Algorithm for Susac Syndrome. J Neuroophthalmol. 2019;39(1):60-67. doi:10.1097/WNO.0000000000000677. PMID: 29933288
- Kleffner I, Dörr J, Ringelstein M, et al. Diagnostic criteria for Susac syndrome. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2016;87(12):1287-1295. doi:10.1136/jnnp-2016-314295.
- Marrodan M, Fiol MP, Correale J. Susac syndrome: challenges in the diagnosis and treatment. Brain. 2022;145(3):858-871. doi:10.1093/brain/awab476.
免責事項
本記事は教育・情報提供を目的としており、個別の医療的助言や施設ごとの診療方針に代わるものではありません。
実際の診療では、患者背景、緊急性、各施設の体制を踏まえて判断してください。
