「乳頭が小さい」という所見は、単なる個体差で済ませてはいけないことがあります。視神経低形成(optic nerve hypoplasia, ONH)は代表的な乳頭先天異常で、その背後に脳形成異常や下垂体機能不全を伴うことがあります。とくに未診断・未治療の中枢性副腎不全は、感染、発熱、嘔吐などを契機に低血糖や副腎クリーゼを起こし、生命に関わります。
本稿は、乳幼児・小児期に診断される先天性ONHを中心に、脳・下垂体評価までを扱います。成人外来で偶然見つかり緑内障との鑑別になる上方区域視神経低形成(superior segmental optic nerve hypoplasia: SSOH)などの区域性低形成は関連する病態ですが、典型的な小児ONHと同じ検査経路を一律に当てはめるものではありません。成人の区域性病変では、眼底・OCT・視野の分布と進行性の有無から緑内障などを鑑別し、神経症状、内分泌症状、両眼性のびまん性低形成などがあれば全身評価の必要性を個別に判断します。
この記事で押さえたいこと
- 視神経低形成は代表的な乳頭先天異常で、軸索数の減少を特徴とする。
- 診断の手がかりは「小さい乳頭」だけでなく、double-ring sign と網膜静脈の選択的蛇行。
- 視機能は良好例から重度障害まで幅広く、乳頭サイズだけでは予測できない。
- 中隔視神経形成異常(septo-optic dysplasia, SOD; de Morsier症候群)と下垂体機能不全との合併に注意。
- 後葉異所性や下垂体茎欠損はホルモン欠損を強く示唆するが、MRI正常でも内分泌異常は除外できない。
- 確定した小児ONHでは、片眼性・両眼性やMRI所見だけで対象を限定せず、小児科・小児内分泌科と評価を相談する。
なぜ「ONH」と呼ぶか – 形成不全と萎縮の違い
ONHは「もともと作られなかった」状態であり、後から壊れた視神経萎縮(atrophy)とは別物です。組織学的には軸索数が少ない一方、グリアと中胚葉成分(結合織、血管)はほぼ正常で、結果として「小さく、灰白色調で、強膜輪は正常サイズの円周にある」という像になります。
この発生学的な「形が小さい」ことの裏返しが、有名な double-ring sign です。
| リング | 解剖学的対応 |
|---|---|
| 外輪(outer ring) | 強膜と篩状板の通常の接合部 |
| 内輪(inner ring) | 篩状板上に張り出した網膜とRPEの異常な延長の末端 |
つまり、外側の輪はもともと「視神経が入るはずだった穴」の大きさで、内側の輪は実際に作られた小さな視神経の縁を示している、と読むと理解しやすくなります。

図1: 視神経低形成のdouble-ring sign模式図です。静脈蛇行は非特異的な補助所見であり、実際の眼底所見や定量評価と合わせて診断します。
眼底所見の整理
検眼鏡で疑うときは、以下を順に拾います。
- 小さく、しばしば灰白色〜淡白色調の乳頭
- 周囲の黄色〜色素沈着のあるリング(double-ring sign)
- 網膜静脈の蛇行(venous tortuosity)— ONHに特異的ではないが、眼振を伴う乳児では補助所見になりうる
- 強い乱視を伴いやすい
- 上方区域低形成(superior segmental hypoplasia)では「topless disc」と表現される像になる
⚠️ 視機能は良好例から重度障害まで幅があります。乳頭サイズだけで予測できず、黄斑乳頭線維を含む残存軸索、両眼性、中枢病変、斜視・弱視など複数の因子が関係します。視力、視野、眼振、斜視、屈折状態を合わせて評価します。
どう測るか – 定量化の試みと限界
「どこから低形成か」を一意に決めるのは難しいというのが現実です。主な定量化指標を並べると以下の通りです。
| 指標 | 目安 | 注意点 |
|---|---|---|
| 乳頭面積・乳頭径 | 年齢・機器の基準値と比較 | 眼底写真やOCTの倍率、眼軸長、屈折異常の影響を受ける |
| DM/DD比 | 黄斑–乳頭距離(DM)÷乳頭径(DD)。比が大きいほど小乳頭を支持 | 測定法、年齢、乳頭回旋、中心窩位置で閾値が変わる |
| DD/DM比 | 上記の逆数。0.35未満がONHを支持する目安として引用される | DM/DDと分子・分母を混同せず、単独で確定しない |
| OCT | RNFL、GCLなどの菲薄化を確認 | 小児の参照データ、セグメンテーション、固視不良に注意 |
DM/DD比には複数の閾値が報告され、年齢や測定法でも性能が変わります。定量値を絶対的な診断基準にせず、眼底形態、OCT、視機能、臨床経過とセットで判断します。
落とし穴1: SOD と脳形成異常
ONHは決して「眼だけの問題」では終わりません。小児の紹介集団では、MRIで大脳半球の形成異常(schizencephaly、cortical heterotopia、polymicrogyria、periventricular leukomalacia など)がしばしば見つかります。ただし、その頻度は紹介経路、対象年齢、片眼性・両眼性、MRIの判定基準で大きく変わるため、「約45%」という単一の数値をすべてのONH患児へ当てはめるのは適切ではありません。大脳半球の形成異常がある場合は、神経発達上のリスクを考えて小児神経・発達評価へつなげます。
septo-optic dysplasia(SOD, de Morsier症候群)は、古典的には(1)視神経低形成、(2)視床下部・下垂体系の機能異常、(3)透明中隔欠損や脳梁異常などの正中脳構造異常、のうち2項目以上を満たす場合に診断されます。すべてが揃うとは限らず、表現型に幅のあるspectrumとして捉えられています。透明中隔欠損単独は、下垂体機能不全や神経発達予後を決める所見ではありません。
| MRI所見 | 臨床的意味 |
|---|---|
| 大脳半球形成異常 | 神経発達障害の強い予測因子 |
| 透明中隔欠損単独 | 神経発達障害・下垂体機能不全のいずれも単独では予測しない |
| 脳梁菲薄/欠損 | 大脳半球異常の併存予測子として有用 |
| 視交叉の菲薄化 | ONHの裏付け(特にcoronal T1) |
要するに、「透明中隔がないか」より「大脳半球と下垂体infundibulumがどうか」を見にいくのが現実的な読影方針です。
落とし穴2: 下垂体機能不全 – 中枢性副腎不全を見逃さない
これがONHで最も見逃したくない部分です。下垂体機能不全の報告頻度には大きな幅があり、紹介経路、片眼性・両眼性、対象年齢、検査方法、追跡期間の違いによる選択バイアスを受けます。単一の頻度をすべてのONH患児へ当てはめることはできません。
| 不足しうるホルモン | 臨床的サイン |
|---|---|
| 成長ホルモン(GH) | 正常身長・成長速度でも初期の欠損を除外できず、後に顕在化することがある |
| 甲状腺系 | 新生児黄疸遷延、成長・発達の遅れ。中枢性ではTSH単独でなくfree T4を評価 |
| ACTH–コルチゾール系 | 新生児低血糖、発熱・嘔吐時の低血糖、循環不全、副腎クリーゼ |
| 抗利尿ホルモン系 | 多飲・多尿、高ナトリウム血症を伴う中枢性尿崩症 |
| プロラクチン | 高プロラクチン血症はむしろ infundibulum 障害のサイン |
⚠️ 中枢性副腎不全を見逃さないことが重要です。未診断・未治療の場合、感染、発熱、嘔吐などを契機に低血糖や副腎クリーゼを起こし、生命に関わります。診断された患児では、ストレス用量のステロイド、注射薬、受診基準を小児内分泌科が家族と事前に共有します。
後葉異所性は下垂体機能不全を強く示唆する
T1強調像で通常の後葉bright spotがトルコ鞍内になく、正中隆起付近などに見える所見が後葉異所性(posterior pituitary ectopia)です。後葉異所性、下垂体茎欠損、後葉bright spot欠如などの神経下垂体異常は、下垂体ホルモン欠損を強く示唆します。ただし、MRI所見とホルモン機能は同義ではなく、正常MRIでも内分泌異常を完全には除外できません。MRIは内分泌検査の代用ではありません。

図2: 下垂体を横から見たT1強調MRIの模式図です。オレンジ色の点は後葉bright spotを表します。左のような後葉異所性・下垂体茎欠損はホルモン欠損を強く示唆しますが、右のように形態が正常でも内分泌異常は除外できません。実際のMRI画像そのものではありません。
| MRI所見 | 何を予測するか |
|---|---|
| 後葉bright spot正常位置+下垂体茎正常 | リスクを下げる所見だが、内分泌異常を完全には除外しない |
| 後葉異所性+下垂体茎欠損 | 下垂体ホルモン欠損を強く疑う高リスク所見 |
| 後葉bright spotを確認できない | 前葉・後葉機能を含む内分泌評価が必要 |
落とし穴3: 妊娠期の因子と関連病態
ONHの背景には妊娠期環境因子が散発的に関与します。
- 母体糖尿病はsuperior segmental optic nerve hypoplasia(topless disc)との関連が報告されています。胎内の代謝・血流環境の関与が推測されますが、機序は確立していません。
- 胎児アルコール曝露などとの関連が報告されていますが、個々の症例で原因を特定できないことが多く、母親の責任を示すものではありません。
- 若年妊娠、第一子などは疫学的関連として報告された因子であり、因果関係を意味しません。
薬剤や先天感染を含む個別の関連は、症例報告と疫学的関連の強さが均一ではありません。病歴から疑う場合に原典を確認し、確立した原因因子のように一括して説明しないことが重要です。また、複数の先天異常症候群との合併が報告されているため、眼所見だけでなく全身観察と発達評価を行います。
早産・周産期脳障害に伴うPVL型の乳頭変化
早産児の周産期脳障害としてPVLがある場合、視放線障害から経シナプス性逆行変性が生じ、乳頭径が比較的保たれたまま大きな陥凹と薄いリムを示すことがあります。対称性の下方視野障害を伴い、緑内障に似て見えるため、早産・低出生体重と脳画像の既往が重要です。典型的な先天性ONHとは病態が異なり、下垂体機能不全との関連も同じようには扱いません。
検査と紹介の段取り
ONHを疑った時点で、眼科が動かすべき経路は以下の通りです。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 視機能評価 | 視力(age-appropriate)、視野(協力可能なら)、瞳孔(RAPD/swinging)、屈折、斜視・眼振の有無 |
| 眼底評価 | 乳頭サイズ、double-ring sign、静脈蛇行、対側乳頭との比較、後極の精査 |
| MRI(脳・眼窩) | 視神経・視交叉、下垂体前葉、下垂体茎、後葉bright spot、透明中隔、脳梁、大脳半球を確認。小児では鎮静の要否を含め適応と時期を相談 |
| 小児科・内分泌科 | 確定した小児ONHでは、片眼性・両眼性やMRI所見だけで除外せず、基礎内分泌評価と成長・思春期の長期フォローを相談 |
| 神経/発達評価 | 大脳半球形成異常があれば発達フォローアップ |
| 弱視管理 | 片眼性なら遮閉、屈折異常があれば早期矯正 |
本邦では、小児MRIの鎮静、基礎・負荷試験の実施、小児内分泌専門医への紹介経路に施設差があります。MRIと内分泌評価の目的を分け、地域の小児科、小児神経科、小児内分泌科と適応・時期を相談できる導線を事前に確認します。

図3: 眼科評価、脳・眼窩MRI、小児科・小児内分泌科との連携を組み合わせる流れです。検査項目と時期は年齢、症状、鎮静の必要性、地域体制によって異なります。
知っておきたい鑑別
「小さい乳頭・色調異常」を見たときの主要鑑別をまとめます。
| 鑑別 | 区別のポイント |
|---|---|
| 視神経萎縮 | 乳頭サイズは比較的保たれることが多い、後天性経過、神経線維層欠損が前景 |
| Aicardi症候群 | 周乳頭 lacunae、女児、点頭てんかん、脳梁欠損 |
| Morning glory disc anomaly | 漏斗状陥凹、中央グリア塊、放射状血管 |
| Periventricular leukomalacia型 ONH | 乳頭径正常、大きいcup、薄いrim、対称性下方視野欠損 |
| Megalopapilla | 乳頭は大きいが視力良好なことが多い |
| 緑内障(小児) | 眼圧上昇、buphthalmos、視野・神経線維層変化 |
眼科医として押さえる視点
ONHは「視機能の問題」と「中枢神経・内分泌の問題」が同居しうる疾患です。MRIでは視神経だけでなく下垂体茎、後葉、視交叉、正中脳構造、皮質形成を確認します。同時に、正常MRIでもホルモン異常を除外できないため、小児科・小児内分泌科への相談を画像結果待ちにしないことが重要です。逆に、低身長、中枢性尿崩症、反復する低血糖などがある患児で眼底を確認する導線も早期発見につながります。
「小さくて灰白色の乳頭」を見たら、頭の中で MRI 像と内分泌チャートが同時に立ち上がるようになると、ONH は怖くなくなります。
まとめ
- ONHは軸索数の減少を特徴とする先天異常で、double-ring signは重要な手がかりになる。
- 視機能は幅広く、乳頭サイズや単一の定量値だけでは予測・診断できない。
- SODは視神経低形成、視床下部・下垂体系異常、正中脳構造異常のうち2項目以上を基本とするspectrumである。
- 後葉異所性や下垂体茎欠損はホルモン欠損を強く示唆するが、正常MRIでも内分泌異常を除外できない。
- 確定した小児ONHでは、片眼性・両眼性や症状だけで対象を限定せず、小児科・小児内分泌科と基礎評価および長期フォローを相談する。
- 未治療の中枢性副腎不全は副腎クリーゼにつながるため、診断例では発熱・嘔吐時の対応を家族と共有する。
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