健診で「視神経乳頭の境界が不鮮明」と指摘された患者。視力は良好で、頭痛もありません。それでも、写真を見ただけで「生まれつきの形でしょう」と説明してよいかは迷うところです。
この場面で必要なのは、真の浮腫と偽乳頭浮腫を見分ける眼科的評価と、頭蓋内疾患を見逃さない初動です。無症状や視力良好は、頭蓋内圧亢進による乳頭浮腫を否定する条件ではありません。 無症候で発見された特発性頭蓋内圧亢進症でも、視機能への影響が報告されています。Rohani・Foroozan 2023
最初に分けたい3つの用語
日本語の「乳頭浮腫」だけでは、形態所見と原因診断が混ざります。本記事では次のように区別します。
| 用語 | 意味 | 主な原因・背景 |
|---|---|---|
| 視神経乳頭浮腫(optic disc edema) | 原因を問わない、真の視神経乳頭の浮腫 | 頭蓋内圧亢進、視神経炎、前部虚血性視神経症、浸潤・圧迫など |
| うっ血乳頭(papilledema) | 頭蓋内圧亢進によって生じる視神経乳頭浮腫 | 頭蓋内占拠性病変、水頭症、脳静脈洞血栓症、特発性頭蓋内圧亢進症など |
| 偽乳頭浮腫(pseudopapilledema) | 真の浮腫がなくても、乳頭が隆起し境界不鮮明に見える状態 | 視神経乳頭ドルーゼン、小さく混み合った乳頭、傾斜・斜入乳頭など |
Papilledemaはoptic disc edemaの一部です。「真の浮腫がある」ことと「頭蓋内圧が高い」ことは同義ではありません。 一方、視神経乳頭ドルーゼン(optic disc drusen:ODD)が見つかっても、そこに真の浮腫が重なる可能性は残ります。Yan・Liao 2021
初診では、危険徴候と視機能を先に押さえる
まず血圧を測り、意識、頭痛の経過、嘔吐、発熱、神経症状を確認します。急激な激しい頭痛、意識障害、けいれん、局在神経徴候、髄膜刺激症状、急速な視機能低下があれば救急評価につなぎます。著明な高血圧と網膜症・乳頭浮腫の組合せでは、高血圧緊急症も考えます。
眼科診察では、次の項目をそろえます。緊急画像が必要な患者で、すべての眼科検査が終わるまで紹介を待つという意味ではありません。
- 視力、色覚、瞳孔反応・相対的求心路瞳孔障害(RAPD)
- 眼球運動と複視の有無
- 定量視野。施行が難しければ対座法などで可能な範囲を記録
- 両眼の散瞳眼底、眼底写真、OCT
- 過去の眼底写真、既往、服薬、最近の体重変化
頭痛、一過性の視覚のかすみ・暗転、拍動性耳鳴、外転神経麻痺による水平複視は頭蓋内圧亢進を疑う手掛かりです。ただし、これらは非特異的で、ないから安全ともいえません。乳頭の形が偽性に見えても、臨床的な疑いが残れば原因検索を並行します。Mollanら 2018

図1:乳頭腫脹の初動。症状の有無で真性・偽性を二分せず、全身状態と視機能を確認し、頭蓋内圧亢進、局所視神経症、偽性所見を評価します。各経路は排他的ではなく、ODDと真の浮腫の併存もあります。
真の浮腫なら、局所視神経症も分けて考える
Papilledemaは通常両眼性ですが、左右差が大きい例もあり、左右差だけで除外はできません。一方、片眼優位の腫脹に明瞭なRAPD、色覚低下、中心視力低下、眼球運動痛、中心暗点などが重なるときは、局所の視神経障害を積極的に考えます。
たとえば、視神経炎、前部虚血性視神経症、感染、浸潤・圧迫などです。視野欠損の形、発症速度、疼痛、年齢、全身症状を手掛かりに、眼窩を含む造影MRIや原因別の検査を選びます。すべてのoptic disc edemaを一律に「脳MRI→腰椎穿刺」へ進めるわけではありません。 Yan・Liao 2021
50歳以上で前部虚血性視神経症を疑う場合は、巨細胞性動脈炎(GCA)も念頭に、新規頭痛、顎跛行、頭皮圧痛、全身症状を確認します。蒼白な乳頭腫脹などから疑う場合は、これらの症状が乏しくても、血算・血小板、CRP、赤沈を含む当日評価へつなぎます。強く疑う場合は、検査結果を待たずにステロイド治療を開始できるよう関係科と直ちに連携します。 BSR 2020
眼底では出血、滲出、血管の隠れ方、乳頭周囲の網膜・脈絡膜皺襞も観察します。これらは真の浮腫を支持しますが、papilledemaに特異的ではなく、軽症では明瞭でないこともあります。OCTと視機能、経過を合わせて解釈します。Sibonyら 2021
ODDを探す検査と、頭蓋内圧を評価する検査は役割が違う
眼科画像は乳頭の構造を詳しく見る検査です。ODDの検出に優れていても、それだけで頭蓋内圧亢進を除外できるわけではありません。
| 検査 | 主に何を見るか | 陰性・陽性でも残る問題 |
|---|---|---|
| 深部強調OCT(EDI-OCT) | 埋没ODDの構造、乳頭内部と周囲の形態 | 網膜神経線維層(RNFL)厚だけで真性・偽性は決められない |
| 眼底自発蛍光(FAF) | 表在性ODDの自発蛍光 | 埋没ODDでは陰性になり得る |
| Bモード超音波 | 石灰化ODDの高反射・後方音響陰影 | 非石灰化・深部のODDでは検出しにくい場合がある |
| フルオレセイン蛍光眼底造影(FA) | 真の浮腫の漏出、ODDの結節状染色など | 侵襲を伴い、すべての例で第一選択とはしない |
| 脳MRIとMRV、またはCTとCTV | 頭蓋内病変と脳静脈洞血栓症など | 眼科画像の代替ではなく、原因検索のための検査 |
EDI-OCTでは、一断面だけでなく乳頭全体を十分な密度で走査します。ODDは典型的には低反射・無信号の中心と、高反射の縁を持つ構造です。「乳頭の中に白く光る部分がある」というだけで診断せず、周囲との関係や連続断面も確認します。ODDS Consortium 2018
PHOMSは「ドルーゼンの別名」ではない
PHOMS(peripapillary hyperreflective ovoid mass-like structures)は、乳頭周囲にみられる卵円形の高反射構造を指すOCT所見です。ODDとは区別します。Papilledema、ほかの視神経乳頭浮腫、傾斜・混み合った乳頭でもみられ、PHOMSがあることは偽乳頭浮腫の確定所見ではありません。 Malmqvistら 2018、Sibonyら 2021
超音波の視神経鞘径も補助情報です。測定法・装置・対象集団で値が変わるため、単一の数値を「この値以下なら頭蓋内圧は正常」という基準にはしません。FAFや超音波の陰性も、特に小児の埋没ODDを否定する材料には不足します。Changら 2020
自発静脈拍動が見えても、精査を省く根拠にしない
自発静脈拍動(spontaneous venous pulsation:SVP)は参考になりますが、「見えたので頭蓋内圧亢進なし」という判定には使えません。腰椎穿刺の開放圧が高い患者でもSVPが観察された研究があります。逆に、見えないことだけで頭蓋内圧亢進と診断することもできません。病歴、視機能、眼底・画像所見を優先して判断します。Wong・White 2013
Papilledemaを疑ったら、脳・静脈系の画像を先に行う
Papilledemaが確定、または十分疑わしい場合は、神経内科・脳神経外科などと速やかに連携します。成人IIHの2018年コンセンサスでは、24時間以内の脳MRIとMRVまたはCTVによる静脈評価を推奨しています。MRIを24時間以内に実施できなければ、緊急CTに加えてCTVなどで静脈系を評価し、原因病変が明らかでなければMRIで補完します。眼窩MRIだけでは脳・静脈系の原因検索を代替できません。Mollanら 2018
画像では占拠性病変、水頭症、脳静脈洞血栓症などを確認します。その後、腰椎穿刺が必要か、安全に実施できるかを、画像だけでなく意識状態、出血リスク・抗凝固薬なども含めて判断します。実施時は安静な側臥位で、可能なら下肢を伸ばし、開放圧と髄液組成を評価します。いきみなどで圧は変動するため、開放圧は診察・画像・髄液所見と合わせて解釈します。臨床像と値が一致しない場合は、測定条件を見直し、必要に応じて再評価を検討します。Wakerleyら 2020
特発性頭蓋内圧亢進症(idiopathic intracranial hypertension:IIH)は、単に「乳頭が腫れている、MRIに腫瘍がない」という診断ではありません。二次性原因を除外し、診察、画像、髄液所見を統合します。Empty sellaや視神経鞘拡大などの画像所見も補助所見です。最近の体重増加や、テトラサイクリン系・ビタミンA誘導体などの薬剤歴も確認します。Mollanら 2018
小児では「単独検査で決着」を避ける
小児は自覚症状を十分に説明できないことがあり、ODDも埋没・非石灰化であることが少なくありません。頭痛の訴えだけでなく、反復する嘔吐、行動変化、新たな斜視や眼球運動異常も家族から確認します。
AAOの2020年報告では、検討された研究の質に限界があり、単独の眼科画像で小児のpapilledemaと偽乳頭浮腫を確実に分けられるとは結論されていません。Changら 2020
この限界を踏まえ、本記事では病歴・診察・複数の画像を統合し、なお疑いが残れば小児科や神経眼科に相談する方針を採ります。必要な原因検索を、単なる「数週後の再診」で置き換えないことが重要です。
経過観察では、乳頭の高さより視機能の変化を重視する
ODDや偽乳頭浮腫と判断した場合も、写真、視野、OCTを初回の基準として残します。経過観察の間隔は、年齢、既存の視野障害、症状、過去の変化に応じて個別化します。ODDS Consortium 2018
経過中に新しい頭痛・一過性視覚障害・複視、乳頭腫脹の増悪、再現性のある視機能低下があれば、偽性という判断や真の浮腫の併存を再評価します。OCTの変化は測定誤差やODD自体の変化も含めて確認し、原因検索の必要性を判断します。
真の浮腫を追跡している場合、RNFLが薄くなったときは、浮腫の軽減だけでなく軸索の脱落も考えます。視力・色覚・視野と、黄斑部の神経節細胞層/内網状層(GCIPL)などを合わせ、「腫れが引いたから改善」と即断しないことが重要です。Sibonyら 2021
確定IIHで再現性のある視野・視力低下が進む場合は、通常の再診を待たず緊急に専門科で協議します。治療は体重管理、薬物療法、必要時の髄液シャントや視神経鞘開窓術などを病態に応じて選びます。外科的介入を急ぐかどうかは、乳頭腫脹の程度だけでなく視機能が脅かされているかが中心です。Wakerleyら 2020
他科へつなぐときに添えたい情報
紹介状には「乳頭浮腫疑い」だけでなく、以下を記載すると判断を共有しやすくなります。これは本記事で提案する実務上の整理です。
- 発症・発見時期、急変の有無、頭痛・神経症状、血圧
- 左右の視力、色覚、RAPD、眼球運動、視野
- 両眼の眼底写真とOCT、過去との比較
- Papilledemaを疑う根拠、局所視神経症やODDを考えた根拠
- 実施済みの画像と未評価の項目、服薬・全身背景
明日からの診察で押さえる3点
- 無症状・視力良好・ODDありのいずれも、papilledemaの除外条件にしない。
- 真の浮腫を認めたら、頭蓋内圧亢進と局所視神経症を分けて原因を考える。
- Papilledemaが疑わしいときは、眼科画像の確定待ちで脳・静脈系の評価を遅らせない。
参考文献・参考資料
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- Chang MY, et al. Imaging Methods for Differentiating Pediatric Papilledema from Pseudopapilledema: A Report by the American Academy of Ophthalmology. Ophthalmology. 2020;127:1416–1423. doi:10.1016/j.ophtha.2020.03.027. 原典
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免責事項 本記事は医療者向けの教育・情報提供を目的とし、個別の医療的助言や施設ごとの診療方針に代わるものではありません。実際の診療では患者背景、緊急性、各施設の体制を踏まえて判断してください。
