内転障害を INO か動眼神経麻痺かで止めない – 3つの分かれ目を Andrew Lee 先生の動画で整理

「内転障害があります」で診察を終えてしまうと、核間性眼筋麻痺(internuclear ophthalmoplegia, INO)と部分的な動眼神経麻痺を取り違える危険が残ります。両者は「眼が内に寄らない」という同じ顔をして外来に来るのに、病変部位は橋〜中脳と動眼神経でまったく違います。今回は Andrew Lee 先生の動画を手がかりに、3点だけで両者を切り分ける手順を整理します。

目次

この動画について

  • 動画タイトル: INO vs Third Nerve Palsy
  • チャンネル名: Andrew G. Lee Channel
  • URL: https://youtu.be/0eH2HL_HNys
  • この動画を取り上げる理由: 「内転障害」を入口にして、外転眼振・輻輳・瞳孔/眼瞼の3点から病変部位を臨床的に絞り込む手順が、外来で使いやすい形で示されているからです。

動画の内容を日本語で解説

共通する内転障害から出発する [ts]0:00-0:45[/ts]

INO と、内直筋を含む部分動眼神経麻痺はいずれも患側眼の内転が障害されます。つまり「内転障害」が共通の入口になります。

  • INO: 内側縦束(medial longitudinal fasciculus, MLF)の障害。第6神経核から対側第3神経核への連絡が断たれ、内転信号が届かない。
  • 動眼神経麻痺: 動眼神経核・神経束・末梢神経のいずれかの障害。内直筋への運動指令が届かず、内転が障害される。

「内転できない」だけ見ているとどちらか分かりません。違いを引き出す問いを3つ重ねます。

鑑別ポイント①:外転眼振(abducting nystagmus)の有無 [ts]0:45-1:30[/ts]

最初の分かれ目は、患側から離れる方向に注視させたとき、反対側眼(外転側)に解離性水平眼振が出るかどうかです。

  • INO では外転眼振を伴うことが多い: 左 INO(左眼が右注視で内転できない)の場合、右注視時に右眼が外転眼振を打つ。
  • 動眼神経麻痺では通常、INOに特徴的な解離性外転眼振を伴わない。

これは INO を支持する重要な所見ですが、外転眼振の有無だけで確定はできません。両眼を同時に観察し、内転眼の速度低下と外転眼の反復運動を組み合わせて判断します。

鑑別ポイント②:輻輳で内転が回復するか [ts]1:30-3:00[/ts]

2つ目の分かれ目は、輻輳(convergence)の指令で内直筋が動くかです。

  • INOでは輻輳による内転が保たれることがある: 共同注視に必要なMLF経路が障害されていても、輻輳による内転が可能な症例があります。
  • 内直筋への動眼神経支配が障害されていれば、輻輳でも患眼は内転しにくい: ただし、部分動眼神経麻痺では障害される線維や外眼筋の組み合わせに幅があります。

ここに落とし穴があります。輻輳所見だけでINOを橋・中脳に分ける従来の局在診断には限界があります。輻輳による内転が保たれればINOを支持する手がかりになりますが、障害されていてもINOは除外できません。「輻輳ができない=動眼神経麻痺」と即断せず、外転眼振、眼瞼・瞳孔、他の神経所見、画像所見を合わせて判断します。

鑑別ポイント③:瞳孔・眼瞼の所見 [ts]3:00-end[/ts]

3つ目の分かれ目は、瞳孔散大と眼瞼下垂の有無です。

  • 孤立性INOそのものでは、瞳孔散大や眼瞼下垂を説明しにくい: MLF障害だけでは、瞳孔括約筋や上眼瞼挙筋を支配する動眼神経系は障害されません。
  • 動眼神経麻痺では瞳孔散大や眼瞼下垂を伴いうる: 動眼神経が内直筋以外に、上眼瞼挙筋・瞳孔括約筋・他の外眼筋を支配しているため。

眼瞼下垂や瞳孔散大は、孤立性INOだけでは説明しにくく、動眼神経麻痺または追加病変を示唆する所見です。ただし、これらがあってもINOの併存まで機械的に否定することはできません。逆に、眼瞼・瞳孔所見がなくても部分動眼神経麻痺は否定できません。

紛らわしいポイント:垂直偏位はどちらにも起こる

垂直方向のずれは「動眼神経麻痺の所見」と決め込みやすいのですが、INO でも skew deviation として垂直偏位が出ます(MLF が垂直注視中枢と連絡しているため)。

  • INO の垂直偏位 → skew deviation
  • 動眼神経麻痺の垂直偏位 → 上直筋・下直筋・下斜筋の麻痺

ですので「縦のずれがある=動眼神経麻痺」とはなりません。垂直偏位だけでの鑑別は危険で、必ず①〜③と組み合わせて読む必要があります。

3つの分かれ目を一覧で確認

鑑別ポイントINO部分動眼神経麻痺
外転眼振対側外転眼にみられることが多い通常はINO型の解離性外転眼振を伴わない
輻輳での内転保たれることがあるが、障害されてもINOを除外できない内直筋への動眼神経支配が障害されていれば回復しにくい
眼瞼・瞳孔孤立性INOでは説明しにくい眼瞼下垂・瞳孔散大を伴いうるが、部分麻痺では正常のこともある
垂直偏位skew deviationを伴いうる支配筋の麻痺パターンとして現れる

この表は病変部位を絞るための整理であり、単独の所見だけで最終診断を決めるものではありません。

図1: 左眼に内転障害がある例を正面から見た模式図です(患者の右眼は図の左側)。右注視時の対側外転眼振、輻輳、眼瞼・瞳孔の3点を、INOと内転障害を伴う部分動眼神経麻痺で比較しています。所見の現れ方には幅があり、この図だけで診断を決めるものではありません。

眼科医としての補足

外来でこの3点を回すときに使える視点です。

  • 3点を順にチェックする: ① 外転眼振の有無 → ② 輻輳での内転回復 → ③ 瞳孔・眼瞼。所要時間は数十秒。
  • INO に「片側 vs 両側」と病変の広がりを重ねる: 両側 INO では両眼の内転障害と、左右注視時の外転眼振を認めます。外斜視を伴う場合は WEBINO(wall-eyed bilateral INO)と呼ばれます。輻輳が保たれることも障害されることもあり、輻輳所見だけで病変高位は確定できません。
  • 部分動眼神経麻痺は瞳孔正常でも起こりうる: 瞳孔回避は微小血管性麻痺を支持しますが、急性動眼神経麻痺で瞳孔が正常でも圧迫性病変を完全には除外できません。発症様式、疼痛、他の神経所見を含めて画像検査の要否を判断します。
  • skew deviation を見つけたら MLF を疑う: 水平の内転障害が見落とされていないかを必ず確認する。
  • pseudo-INO を忘れない: 重症筋無力症では、内転障害と対側眼の外転眼振がみられ、INOに似ることがあります。日内変動、易疲労性、変動する眼瞼下垂や眼球運動障害、脳幹画像で対応病変を認めない場合はpseudo-INOを考えます。

元動画をご覧ください

3点鑑別の組み立て方は、Andrew Lee 先生の図示と説明の順番を見ると頭に入りやすくなります。本記事は外来での使い方に寄せて再構成しているので、原典で補強してください。

まとめ

  • INO と動眼神経麻痺は「内転障害」という同じ顔で来るが、病変部位は MLF と CN III でまったく違う
  • 鑑別の3点: ① 外転眼振の有無、② 輻輳での内転が保たれるか、③ 瞳孔・眼瞼の所見
  • 輻輳障害があってもINOは除外できず、輻輳所見だけで病変高位やINO/動眼神経麻痺を断定しない
  • 垂直偏位はどちらにも起こる(INO は skew、CN III は外眼筋麻痺パターン)
  • 急性の動眼神経麻痺では、瞳孔所見だけに依存せず動脈瘤などの圧迫性病変を評価する

参考文献・参考資料

  • Andrew G. Lee Channel. INO vs Third Nerve Palsy. YouTube. https://youtu.be/0eH2HL_HNys
  • Liu GT, Volpe NJ, Galetta SL. Liu, Volpe, and Galetta’s Neuro-Ophthalmology: Diagnosis and Management. 3rd ed. Elsevier; 2019.
  • Nijsse B, Wefers Bettink M, Neuteboom RF. Pseudointernuclear ophthalmoplegia as a presenting feature of ocular myasthenia gravis. BMJ Case Rep. 2014;2014:bcr2013203234. doi:10.1136/bcr-2013-203234

免責事項
本記事は教育・情報提供を目的としており、個別の医療的助言や施設ごとの診療方針に代わるものではありません。
実際の診療では、患者背景、緊急性、各施設の体制を踏まえて判断してください。

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