CRAOを「眼の病気」で終わらせない – 米国optometrist調査(Mileski 2024)が示す初期トリアージと紹介先の課題

CRAO(central retinal artery occlusion)は急性網膜虚血であり、診断後は眼だけでなく脳・心血管系を含む緊急評価へつなぐ必要があります。それでも患者は、まず身近な眼科や視機能をみる一次施設を受診することがあります。この最初の施設からどこへつなぐかが、対応の速度を左右します。

目次

この論文を紹介する理由

Mileski 2024は、米国のoptometristを対象に、急性RAO(retinal artery occlusion)を「いつ評価しているか」「どこへ紹介するか」をアンケートで調べました。回答率は6.1%でしたが、CRAOを経験した回答者のうち発症4時間以内に評価した割合は28.3%、発症48時間未満の急性RAOに対する想定紹介先はstroke center併設EDが44.0%、外来眼科が39.9%でした。日本と米国では職種や医療制度が異なるものの、一次施設からの救急導線を考える材料になります。


図1: 発症48時間未満のCRAO/BRAOに対して回答者が選んだ想定紹介先です。実際の患者紹介率や転帰を示すデータではなく、日本の医療体制へ割合を直接当てはめることもできません。

論文の基本情報

  • タイトル: Optometric Practice Patterns for Acute Central and Branch Retinal Artery Occlusion
  • 著者: Kelsey M. Mileski, Valérie Biousse, Nancy J. Newman, Alexis M. Flowers, Wesley Chan, Michael Dattilo
  • 掲載誌・年: Journal of Neuro-Ophthalmology, 2024
  • DOI: 10.1097/WNO.0000000000001915
  • 研究デザイン: 米国optometristへの匿名7項目アンケート(横断調査、2020年に配信)

論文記載

背景:急性RAOでは迅速な全身評価が必要になる

CRAOおよびBRAOは、不可逆的な視機能障害につながりうる急性網膜虚血です。特にCRAOは急性虚血性脳卒中の一形態と位置づけられ、眼所見の確認だけでなく、同時性脳梗塞、頸動脈病変、心原性塞栓源などの評価と二次予防へ迅速につなぐ必要があります。

網膜虚血では治療までの時間が重要と考えられますが、ヒトにおける不可逆的障害の時間的境界を一律に「4時間」と定めることはできません。CRAOに対する静注血栓溶解療法は、適格例で発症4.5時間以内を目安に検討されることがありますが、有効性と安全性は脳梗塞ほど確立していません。動注療法も含め、実施の可否は専門施設の体制や最新の指針に依存します。したがって、救急紹介の目的は血栓溶解療法だけではなく、迅速な脳卒中評価と再発予防にもあります。

方法:米国optometristに7問のwebアンケート(2020年)

American Academy of Optometry と American Optometric Association の会員(計31,603名)へ、webベースの匿名アンケートが送付されました。設問は、勤務形態、stroke center併設EDまでの距離、過去12か月のCRAO/BRAO経験、発症から受診まで(急性CRAO)、紹介先、急性期治療(静注血栓溶解)に関する臨床試験への協力意思などを含みます。

重要な前提として、アンケートでは arteritic / nonarteritic の鑑別は求めていない、と明記されています。

結果:回答率は6.1%、CRAO経験は少なく、4時間以内の評価は少数

回答は1,926名(6.1%)でした。勤務形態は、optometrist主体の外来が72.5%で最多とされています。回答者の約77%はstroke center併設の大きなEDまで30分以内と回答しています。

CRAOは「過去12か月に診断していない」が52%で、診断していても年間5例未満が大多数(98%)と報告されています。CRAOを過去12か月に診断した回答者のうち、患者を発症4時間以内に評価したと答えたのは28.3%(261/922)でした。これは患者単位で測定した受診時間や治療成績ではなく、回答者の自己申告です。一方、BRAOはCRAOより経験頻度が高く、過去12か月に少なくとも1例診断した回答者は66.5%でした。

紹介先:急性RAOではstroke center併設EDが44%、外来眼科が約40%

発症48時間未満の急性RAOに対する想定紹介先として、stroke center併設EDが44.0%(844/1,917)である一方、外来の眼科(ophthalmology/サブスペシャルティ)を選んだ回答者は39.9%(764/1,917)でした。stroke centerのないローカルEDは13.0%でした。この設問はCRAOとBRAOをまとめて尋ねており、「CRAO患者の39.9%が外来眼科へ紹介された」という患者単位の実績ではありません。

勤務形態による差として、optometrist主体の外来では外来眼科を選ぶ回答が多い(45.2%)こと、またEDまでの距離が30分以内の群はEDを選ぶ回答が多い(59.6%)一方、30分超の群では外来眼科を選ぶ回答が増える(47.2%)ことが示されています。ただし、横断的な自己申告調査であり、距離が紹介行動を決定したという因果関係までは示せません。

考察の要点(論文内の議論)

著者らは、患者が突然の視力低下をstrokeの警告と捉えず、最初に地域のeye care providerを受診しやすいことに触れた上で、急性RAOをstroke equivalentとして扱い、stroke center併設EDへ迅速につなぐネットワーク整備と教育が必要だと結論づけています。これは米国の調査結果であり、日本での搬送先や連絡方法は地域の救急医療体制に合わせて設計する必要があります。

追加調査

※以下は論文本文の直接記載ではなく、本邦の一次眼科施設で診療導線を整える際の確認項目です。

  • 急性RAOを受け入れる救急・脳卒中施設と、眼科から直接連絡する方法を確認する。
  • 夜間・休日を含む搬送先、救急要請を含めた搬送手段、受け入れ困難時の代替施設を共有する。
  • 発症時刻または最終健常確認時刻、眼所見、神経症状、巨細胞性動脈炎を示唆する症状など、紹介時に伝える項目を定型化する。
  • 血栓溶解療法の適応、実施可能時間、院内プロトコルは施設により異なるため、事前に受け入れ先と確認する。

考察 / 実務提案

本論文の強みは、急性RAOを最初に評価しうる職種が、どの紹介先を選ぶかを数値で示した点にあります。ただし、「外来紹介が実際に転帰を悪化させた」ことを検証した研究ではありません。日本ではoptometristの資格・役割が異なるため割合を直接当てはめず、患者がまず一次眼科を受診した場合の導線を点検する材料として利用します。


図2: 急性CRAOを疑った一次眼科から、地域の救急・脳卒中導線へ直接つなぐ流れです。搬送方法や治療適応は症例と地域体制によって異なり、この図だけで判断するものではありません。

他科への橋渡し

  • 救急・脳卒中チーム: stroke workup(同時性脳梗塞、原因検索、二次予防)と、適格例における血栓溶解療法の検討。紹介時は発症時刻または最終健常確認時刻、急性RAO疑い、眼所見、神経症状を簡潔に伝える。
  • 神経内科: 脳梗塞評価、リスク因子管理、二次予防の設計。眼科側は「眼所見の確度」と「時間軸」を渡す役割。
  • 循環器内科/心臓血管外科: 心原性塞栓・頸動脈病変などの評価が必要な場合の受け皿(施設体制に依存)。

限界と注意点

  • 本研究は2020年に実施されたアンケート調査であり、回答率が6.1%と低い。非回答バイアスが大きく、回答者が現在の米国optometrist全体を代表しているとは限らない。
  • 自己申告または想定行動に基づくデータで、診断、実際の紹介行動、搬送時間、患者転帰は検証されていない。
  • 紹介先の設問はCRAOとBRAOをまとめており、両者の紹介行動を分離できない。両者とも迅速な血管評価を要するが、視機能障害や急性期治療の適応まで同一ではない。
  • arteritic/nonarteriticの区別を設問に含めておらず、巨細胞性動脈炎は別の緊急分岐として評価する必要がある。
  • CRAOに対する血栓溶解療法の有効性と安全性は確立途上であり、時間枠の記載を一律の治療推奨として解釈してはならない。

まとめ

  • Mileski 2024は米国optometristの急性RAO対応をアンケートで定量化した
  • 回答者の多くはstroke center併設EDまで近い一方、CRAO経験は少なく、4時間以内評価は少数だった
  • 発症48時間未満のCRAO/BRAOを合わせた想定紹介先は、stroke center併設EDが44.0%、外来眼科が39.9%だった
  • EDまでの距離と紹介先の回答には関連がみられたが、因果関係や患者転帰は検証されていない
  • 著者らは、急性RAOをstroke equivalentとして扱う教育と紹介ネットワークの整備を提案している
  • CRAOの救急紹介は血栓溶解療法だけでなく、同時性脳梗塞の評価、塞栓源検索、二次予防を迅速に始めるために重要である
  • 日本では一次眼科から救急・脳卒中施設へ直接つなぐ地域導線を、夜間・休日を含めて事前に決めておく

参考文献・参考資料

  • Mileski KM, Biousse V, Newman NJ, Flowers AM, Chan W, Dattilo M. Optometric Practice Patterns for Acute Central and Branch Retinal Artery Occlusion. J Neuroophthalmol. 2024;44(3):350-354. doi:10.1097/WNO.0000000000001915. PMID: 37733470
  • Mac Grory B, Schrag M, Biousse V, et al. Management of Central Retinal Artery Occlusion: A Scientific Statement From the American Heart Association. Stroke. 2021;52:e282-e294. doi:10.1161/STR.0000000000000366
  • American Academy of Ophthalmology Preferred Practice Pattern Retina/Vitreous Committee. Retinal and Ophthalmic Artery Occlusions Preferred Practice Pattern®. Ophthalmology. 2025;132:P270-P302. doi:10.1016/j.ophtha.2024.12.024

免責事項
本記事は教育・情報提供を目的としており、個別の医療的助言や施設ごとの診療方針に代わるものではありません。
実際の診療では、患者背景、緊急性、各施設の体制を踏まえて判断してください。

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